週刊 奥の院 8.17

 今週のもっと奥まで〜
■ 碧野圭 『情事の終わり』 実業之日本社文庫 600円+税
『書店ガール』『銀盤のトレース』の碧野圭による悲しい恋愛小説。  奈津子42歳、大手出版社編集者。姑同居、娘反抗期、夫婦仲不良。7歳下の営業担当・関口諒(あきら)と恋。人気作家・榊にも言い寄られる。榊の手から逃れたところで関口に会う。

…… 

「あなたはあの男の誘惑に屈しかけたんだ。それは隙があったからじゃないですか? それとも、ああいう地位も名誉もある男になら、抱かれてもいいと思ったんですか?」
「ひどい。どうしてあなたがそんなこと言うんですか。なんの権利があってそんなに私を責めるの?」
 奈津子の目に涙が浮かぶ。それを見て、関口はたじろいだ。
「なぜって……それは……あなたが好きだからだ……俺は嫉妬しているんだ、あの男に……もう少し出てくるのが遅かったら、俺は事務所に乗り込むところだった。こんなに人を心配させるなんて」
 関口は奈津子の腕を強く引っ張る。バランスを崩して倒れかかった奈津子を関口は身体ごと受け止め、そのまま力いっぱい抱きしめる。奈津子の胸の鼓動は耐え切れないほど、速く打っている。関口も同じように心臓が高鳴っていることに奈津子は気づいた。
「あなたが好きだ」
 関口が繰り返した。それを聞いて奈津子はおそるおそる腕を挙げ、関口の背中に腕を回した。両手いっぱいに男の存在を感じる。男の匂いに包まれる。関口は貪るように奈津子の唇を求め、そのまま深く舌を差し入れてくる。奈津子は夢中でそれを受け止めていた。息も止まるほど激しい口づけをかわしたあと、関口は奈津子を抱きしめたままじっとしていた。
「言いたくなかった。あなたに深入りしそうだから。だけど、もう……もうどうしようもない」
 それを聞いて奈津子の中に喜びが込み上げてきた。嬉しさのあまり、全身、鳥肌が立つほどだった。
「私もあなたが好き」
 囁くように言うと、関口の頭を両手で引き寄せて自分から口づけを求めた。
……

(平野) 
 紙版は、他2本あり。いずれも実日文庫。ひとつずつやれば、3回分あるものを……?
 私、出し惜しみは、せん!
■ 坂井希久子 『秘めやかな蜜の味』 514円+税
 現役SM女王様による幻想性愛小説。
■ 花房観音 『寂花の雫』 533円+税
 団鬼六賞作家。京都の山里でひっそりと民宿を営む未亡人。彼女のもとに現れた男性は何者?