週刊 奥の院 8.14

■ 釈徹宗 郄島幸次 『大阪の神さん仏さん』 140B 1500円+税
 釈は1961年池田市生まれ、浄土真宗の僧侶で宗教学者
 郄島は1949年大阪市生まれ、大阪大学招聘教授、日本近世史。大阪天満宮文化研究所員、天神祭研究も。 
目次
神さん編 その一 「水」にまつわる大阪の古社と、川のように習合する日本人の信仰
神さん編 その二 人知の及ぶべくもない天災を前に、宗教が贈るメッセージ
神さん編 その三 夏祭りもコミュニケーション重視! 大阪の神さんのアクティビティ
● 「神」とはすなわち「働き」。 釈徹宗
仏さん編 その一 神道キリスト教との比較から考える 日本そして大阪と仏教のつながり
仏さん編 その二 合理主義、横並び意識…浄土真宗が導く、大阪版プロテスタンティズム
● 「明るさ」は滅びの姿か。 郄島幸次

 釈が語る大阪人。合理性を重んじる。同時に信心深い。

 この基質は、大阪の地が育んだコンプレックス(複合心性)に起因するのではないか。大阪は、四方八方から流入してくるものが交差する場である。奈良からは大和川生駒山地を通って、京都からは淀川経由で、大陸からは瀬戸内海を通って、物心両面さまざまなものが集積することで生成してきたのだ。時には反対勢力の拠点であり、時には埋葬の地となり、時には国の中心となり、時には商業都市であり、時には宗教都市であり、時には軍事都市となり、時には教育都市となり、時には工業都市となる。都市ごと性格を変貌させてきたのである。そのため、そこに住む人々は、一人が複数の共同体に所属(重所属)するメンタリティーを大切にしてきた。これが大阪人のコンプレックスを編み上げてきたのである。大阪人のコンプレックスはけっこう複雑である。大阪人は、「自分ひとりの力だけで生きているわけではない」ことを骨身にしみて知っている。……

「儲かりまっか」「ぼちぼちでんな」「おかげさんで」という挨拶は、「みなさんのおかげ」「ご先祖のおかげ」「神さん仏さんのおかげ」ということ。
土地に根ざした神さん仏さんから、大阪とその人々の特性を読み解く。

【釈】日本全国を概観すれば、大部分の神道が山や海を中心に展開しています。なかなか人が行けないような場所に神はましますというような傾向が強い。これに対して、もともと都市であった大阪の神さんは、どんな特性を持っているのでしょうか。都市の神という風に考えていいんでしょうか?
【郄島】大阪が都市になるのはずっと後の話です。すると現在の大阪の中で非常に格式の高いところは、そういう新しい性格の神様(都市の神)であることを打ち出すのは得策ではないんですよ。うちはいかに古いかをアピールするほうがいいんですね。大阪がまだ海の底だった時代に上町台地が伸びていましたね。そのころからの神社としての伝承を前面に出す方が、都市の神社としても結果的には評価される部分があるんでしょうね。
【釈】なるほど。霊山でもある生駒や妙見信仰などがあるものの、大阪の神の主役は「海の神」「水の神」ですか。そうすると住吉大社あたりに注目しなければならないわけですね。
【郄島】今年は、住吉さんの鎮座1800年です。5世紀初頭くらいの創祀だという研究もありますが。……
(その高い格式ある住吉大社を人々は親しみをこめて「すみよっさん」と呼ぶ)
……
【釈】私のイメージでは、神社というのは「人間の不安とか欲望を映す鏡」みたいな気がするんです。その時代、その社会における欲求やニーズを、次々に取り込んでいく懐の深さと、宗教文化を持っている。その点、仏教では欲求やニーズを「苦の原因」であると説く。
【郄島】私、懐がさびしいから拝みに来ました、というのはいけないわけですね。
【釈】阿弥陀さんに、自分の欲を押しつけてはいけません。
【郄島】こんなこと言うんですよ(笑)
【釈】仏教は「生きることは、苦である」といったところから出発します。「生きる」ことは、「思い通りにならない」ということであり、「思い通りにならない」ことは、「苦しむ」ことである、とするのです。……自分の欲望を神や仏に投影するのは、大きく方向を間違えていることになります。
【郄島】その点、まさに、神さんは、天神信仰がわかりやすいんですけれど、人々の一番の不安は疫病なんですね。天然痘や疱瘡から守ってくれるという信仰だったのが、貴族たちが拝み始めたら文学や和歌の神様になる。江戸時代には学問の神様としてヒットする。今では「受験の神様」と呼ばれるほうがなじみがあるかもしれません。
【釈】実際の信仰レベルでは、「融通念仏は、お金を融通してくれる」のような話になるのです。……「そんなの仏教じゃない」とか。でも、我々は何も「本当の神道者のあり方」や「本当の仏教者のあり方」を探ろうとしているわけではない。雑多で猥雑な信仰形態の中から、大阪の特性を読み取ろうとしています。

 カバーの絵は『浪花百景』の「四天王寺」。
(平野)月曜朝礼「新刊紹介」なし。