週刊 奥の院 8.11

■ 小野智美 編 『女川一中生の句 あの日から』 羽鳥書店 はとり文庫 900円+税
 宮城県女川(おながわ)町女川第一中学校も津波に襲われた。生徒1人が亡くなり、1人が行方不明。家族を亡くした生徒がたくさんいる。家もなくなり、ふるさとの景色も失った。全校生徒が俳句授業で心の内を詠んだ。
 編者は朝日新聞記者、昨年9月から仙台総局勤務。
 俳句づくりは(財)日本宇宙フォーラムの提案。来年夏に国際ステーションに句集を打ち上げるそうだ。
 授業を担当する佐藤先生は次女を亡くした。昨年5月と11月の授業で、5月では震災を題材にした句は限られていたが、11月には多くの生徒が震災と向き合っていた、と言う。
「前より重くなっている悲しみもある。でも、向き合うから、希望も生れるのだと思う」
 先生の句。
胸の奥 しみこむ記憶 八ヵ月 
 S君の句がある。5月。
雀の子 とべよとべよと せかす母
 雀の子は町のこと。早く復興を。よく母に言われた、「早く起きなさい。早く勉強しなさい。……」
母と祖父母が亡くなった。
 11月の句。
会いたいよ 今も変わらぬ この気持ち 
 S君は叔父さん一家と暮らす。叔父さんは自分自身を戒めながら、S君に言う。
「ふりむくことはすんな。でも、忘れたら、だめだぞ」
 今年5月、俳句授業があった。S君はなかなか詠めなかった。あの日の夜空が思い浮かんだ。町の体育館で同級生と過ごし、深夜眠れずに外に出た。


……家明かりを失い、街灯も消え、あれほど町が暗かったことはない。その上に広がる空。見たことのない数の星。きれいだった。……千年に一度の地震だから、あれほどきれいに輝く星はもう見れないべな。直後の悲しい時に見た星だからこそ、忘れたくない。
 そのまま五七七を紡いだ。授業が終わる寸前だった。
忘れない あの日の夜の 星空を

 
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(平野)