週刊 奥の院 8.6

■ 加藤郁乎 『俳人荷風』  岩波現代文庫 920円+税
 著者(1929〜2012)は詩人・俳人。本書と『荷風俳句集』(岩波文庫、未刊)編纂の仕事を続けていたが、5月16日逝去。「あとがき」は未完のまま「編集後記」となった。
 

 永井荷風俳人としてなつかしい人である。その八百からを算える俳句を余技として扱うにとどめるのはいかがなものか。随筆、小説に自句とかぎらず俳諧俳句を持ちこみ折りふし繰り返し俳味のおもしろさを語り、若い時分から俳文と見紛うばかりの小品を数多くしている。琴棋は別として書画を能くした荷風は風流韻事を殊のほか大切に見立てていた。……

 売文の筆買ひに行く師走かな
 大正4年11月、兄事した俳人・籾山梓月の句集の「序」を脱稿して。
「……荷風はこれを機に本腰を入れて俳諧俳句を学ぼうとしている。……」
 
 わが庵は古本紙屑虫の声
「文壇文士との交わりを好まなかった荷風には専業俳人との付き合いもほとんどない。……一庵の俳人以外の何ものでもなく索居独棲を貫き通した。」

■ 『別冊太陽 山田風太郎』 平凡社 2400円+税 
私の山田風太郎体験  関川夏央
初公開 遺された風太郎の手紙
……
鎌田慧鹿島茂中野翠横尾忠則南伸坊山本兼一橋本治 他
啓子夫人インタビューより。

(病魔が忍び寄る)
 山田は急に老いたり病気になってということではなく、すべてが徐々にといった感じでした。最後の頃、書く字はミミズの這ったような字でしたが、耳は達者で、言葉はだんだんと不自由になってきましたね。何を言っているのかわからなくなったのは、最後の一か月ぐらい。お酒も救急車で運ばれる前の日まで飲んでいました。……
 最後の十日ぐらい朦朧となるまでは意識がありまして、話せなくなってからは、五十音をボードに書いて、何か言いたいことがあったら指を指すようにしましたが、とくに最後の言葉というものはなかったですね。……

 お墓にも仏壇にもウィスキーを供えている。 
(平野)