週刊 奥の院 8.1

■ 『震災学』 vol.1  東北学院大学発行 荒蝦夷発売 1800円+税
https://www.fukkou-daigaku-volunteer.jp/information/detail.aspx?type=info&msgid=b31cb449-8cd4-e111-bd6b-1cc1de6e5b11
【創刊に寄せて】より。
 

 あれから、一年有余の歳月が流れた。   
 この歳月のうちに、被災地の姿は変化した。
 避難所に被災した人々は集まった。だがその人々も一人去り二人去り、避難所は消えていった。……
 被災地は、復旧から復興への道を刻もうとしている。過ぎ去った時間。それでも人々はとりあえずの日常を、とりあえずの生活を刻まねばならない。そして、被災地の表情は変わった。いそいそとした日常に復帰しても、それでも、人々はいつもあの時、あの場所へ押し帰される。いったい、あれは何だったのか。
 被災地の表情は変わっても、人々の心に残された傷は癒えない。その癒えない傷が、私たちを押し帰す。あのとき、あの場所へ。いったい、あれは何だったのか。
 おびただしい数の情報が飛び交った。そしておびただしい量の情報が収蔵されつつある。それらの情報を前にしながら、あの時と今の間に、問いが生まれ、反省が生れた。学問が生きていくことに関係しなければならないとしたら、学問はこの問いの前にたたねばならないだろう。
 問うだけではたりない。痛々しい現実の場に赴き、人々の受苦に直面し、それを見つめ、それに手を差し伸べ、寄り添っていかねばならない。学問があるのだとしたら、学問の倫理性が問われている。……
『震災学』という学問が存在するわけではない。あるのは、私たちの前に突きつけられている「問い」だけである。「現場」とは何か、「現実」とは何か、この問いだけが私たちに突きつけられている。……


■ 郄田郁 『晴れときどき涙雨  郄田郁のできるまで』 創美社・発行 集英社・発売 933円+税 
 おなじみ郄田郁さん、初のエッセイ集。
 筆一本で勝負するド演歌人生……、でもね、暗い人じゃない。勁い、明るい、まわりの人を元気にしてくれる。
 現在の活躍ぶりは、読者の皆さんがご存知。『この時代小説がすごい! 文庫書き下ろし版』(宝島社)では、ダントツの一位に輝いている。ある日突然売れっ子になったわけではない。
 1993年に漫画原作者としてデビューしてから、時代小説家になるまで16年。原作者だからといって好きなことを書いて仕事=創作をしていたわけではない。それこそ足で取材を重ねた。その前は法律家を目指して、挫折した。震災があった、交通事故にも遭った。傷だらけの郁の人生。
 この人は、以前も書いたが、ほんとうに本と本屋を大事にしてくれている。【海】はご幼少の頃から来てくださっていたそうだが、現在は仕事の合間に全国の本屋を回っている。現場の人間に気さくに話しかけてくれる。書店員の気持ちを摑んでしまう。私のような内気(?)で人見知り(?)のおっさんもファンになる。
 本書の話からひとつ。 
「お兄さんといっしょ」
3歳違いの兄上。成人してから面白い関係になる。
……社会に出て世間に揉まれることで、それまで見えなかった相手の優しさや気遣いが素直に心に沁みるようになる。……
司法試験に失敗するたびに、
「次は絶対イケる。この俺が保証する」
と胸を叩く。
作家に転身するときも、
「何があっても、お前は大丈夫や。その道で花を咲かす。俺が保証するで」
また胸を叩く。
デビューしてもなかなか芽が出ない。
「焦る必要ないで。お前は大器晩成型なんや。俺が保証する」
やっぱり胸を叩く。
 叩きすぎ。
 兄上は保証金をもらうべきでしょう! 反対に渡すべきか?
(平野)