週刊 奥の院 7.20

今週のもっと奥まで〜
■ 川奈まり子 『人妻、洗います。』 双葉文庫 600円+税 
 著者は元出版社勤務、AV女優から作家に。カバーのモデルはご本人。7月新刊は『熟れ酔い美人』(同社)だが、書名に引きつけられて。
 洋一は高級クリーニングの御用聞きアルバイトに応募。女社長万里子の面接。
「わたしたちのお仕事は、奥さま方の心まで洗ってさしあげること」
最初の仕事は社長同行。お客は和風美女・仁美。品物は和服一式。

「良いお品物ばかりですね」と万里子が行った。
「帯も洗っていただけるのでしょうか。少しシミを付けてしまったんです」
「この程度なら綺麗になると思います。すこしお時間をいただきますが、和装小物や足袋や、お襦袢のクリーニングや補修も承っております」
 襦袢と聞いたとたん、人形めいて表情のとぼしい仁美の顔に動揺が走った。
「……えっ、お襦袢も」
……

 翌日、洋一は再度集配に。何がどうなるかは想像、想像。 



ちくま文庫の続き 
■ 大村彦次郎 『時代小説盛衰史 上・下』 各1000円+税
 2005年筑摩書房刊。大村は元講談社編集長、重役。『文壇うたかた物語』『文壇栄華物語』他、文芸編集者から見た日本文壇史の著作多数。本書は時代小説について。 
 中里介山岡本綺堂長谷川伸吉川英治直木三十五……、戦後の司馬遼太郎池波正太郎……、作家のエピソード、名作誕生秘話を紹介。挿絵画家、編集者にも光を当てる。本書、第41回長谷川伸賞、第19回大衆文学研究賞受賞。  
■ 大塚ひかり 『女嫌いの平家物語 780円+税  

 原形『平家物語』には、祇王や小督や小宰相、没落後の建礼門院といった「女の物語」はなかったという。 
 さもありなん。
 彼女たちはどこか皆、不自然で、取りつくろった様子に見える。  まずブスがいない。
 ブスがいないどころか、『平家物語』に登場する女たちは、いずれもミスコンに応募すれば、全員優勝してしまいそうな美女ぞろい。
 男を嫉妬で追いつめる女、政界を牛耳る女、野望に燃える女もいない。……

 女に冷たい物語、作り手は女が嫌い、母に厳しい……、それでも『平家物語』に「女の物語」がなかったら、陰惨で希望のない、冷たい死体のようなもの、と。



……ああ私も清盛のようにおごっていたのだ、維盛や通盛のように心残りで死ねない大切な人がいるのだ、と、時代を超え、性別を超え、共感の涙を流すには、不自然でも分かり合えなくても、女たちの物語が必要だったのだ。…… 


■ 大川渉 『酒場めざして 町歩きで一杯』 880円+税 
 東京下町の路地を散策して、見つけた居酒屋で一杯。
「歩き」が目的なのか、歩き終わっての「飲み」が大事かと自問。
 他人が言うのも何ですが、「飲み」でしょう。
(平野)
 朝、運がいいと高校時代の6番目くらいの初恋の人に会える。近所にお勤め、商店街を数十メートル一緒に歩ける。水曜日に会えて喜んでいたら、会社でよくない話を聞く。書店員仲間(他店の呑み仲間)が辞めるそう。続けて、長い付き合いの販売促進U氏が退職した、と。ふたりとも田舎に帰る。