週刊 奥の院 7.15

■ 澁澤龍彦 『私の戦後追想』 河出文庫 950円+税 
カバーデザイン:菊地信義  解説:高橋睦郎
澁澤の自伝的エッセイを『全集』(河出)から再編集した本。
勤労動員と終戦  帝都をあとに颯爽と  血みどろな軍歌  葦原将軍のいる学校  ないないづくし……わが青春期  古本屋の話  落書き  機関車と青空 他
戦後の日々  戦前戦後、私の銀座  ポツダム文科の弁  東京感傷生活  終戦後三年目……吉行淳之介  久生十蘭のこと  アルバイト  校正について 他
日々雑感  威勢のわるい発言  よいお酒とよい葉巻さえあれば  わが酒はタイムマシーン 他
記憶の中の風景  変化する町  藤綱と中也……唐十郎について  鎌倉のこと 他
病床にて  都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト  穴ノアル肉体ノコト 
「穴ノアル〜」より。

 男性には一般に、のどにノドボトケという突起物、すなわちヨーロッパでいうところの「アダムの林檎」なるものがあるが、私には、それがなくなってしまっている。そうして、のどの下あたり、ちょうど左右の鎖骨のあいだに、ぽかりと一個の穴があいている。この穴によって、もっぱら私は呼吸をしているのである。……

 この穴をふさがれたら窒息してしまうが、鼻や口をふさがれても大丈夫だし、縄で首を絞められても苦しくない、とユーモアたっぷりに書く。
「いつまでも死なずに生きているというのは、まさに喜劇以外の何ものでもない」
 また、女性と同じ数の穴になり、両性具有願望が実現したとも。
 
(平野)