週刊 奥の院 6.24

■ マイケル・ラルゴ  橘明美 訳
『図説 死因百科』 紀伊國屋書店 
2200円+税

(帯)   
今日もどこかで、こんな理由で、誰かが死んでいる。
アメリカでは年間に――
3人がワニに食われて
30人がスカイダイビングで
40人がサソリに刺されて
143人が落雷で
1795人が救急車の事故で
3761人がマスターペーションで
――この世を去っている。

 
著者は、ニューヨーク生まれ。教師、編集者、バー経営などを経て、作家。
本書、2006年ブラム・ストーカー賞アメリカホラー作家協会主催)ノンフィクション部門受賞。
 誰(歴史的人物)がどんな病気で死んだとか、何歳で逝ったとかの本はいろいろある。本書は、人間は何が原因で死ぬか、を調べた。

……調べはじめてまず当惑したのは、死亡診断書に記載される死因が1700年には100種類に満たなかったものが、今日では3000種類を超えているという事実である。……

 死因を分類。医薬、飲食、運動、驚愕、事故、自然、社会、精神、生物、生理、男女、乗り物、犯罪、病気、文明、欲望、歴史。
 当然重複する「死」もあるだらうが、著者はこう分類。
【医薬】では、アナボリックステロイド安楽死、生き埋め、意識不明、胃バイバス手術、結合双生児、産褥熱、自宅出産、市販の医薬品、脂肪吸引瀉血、注射針、中絶、電気メス、ボツリヌス中毒。
 個人的に気になるのは、【男女】。
 インポテンツ、オーラル××、結婚式、自己去勢、ストーカー、性感染症、窒息プレイ、出会い系サイト、ドメスティック・バイオレンス、媚薬などなど。
 邦訳では50音順。最初は「アイスクリーム」。分類では「飲食」。アイスクリームの歴史的エピソードから語られる。「死」とどうつながるか。
 産業としての「アイスクリーム」で、ライバル会社とのもめ事やら、販売方針についての違いから殺人事件。これが1985年以降1117人に及ぶそう。また、子どもがアイスクリームを買いに走る行き帰りでの事故死も含まれる。2003年のアメリカ人アイスクリーム消費量から、動脈硬化による死まで推定する。

[序文]で著者が人の死に興味をもつようになった理由を書いている。
父親がニューヨーク市警の刑事。子どもだった著者をよく管轄の事件現場に連れて行く。

……ちょっとした街角や、なんの変哲もない建物なのだが、父はここで殺人事件があったとか、ここで事故があって何人死んだといったことをすべて正確に知っていて、事件の細部まで聞かせてくれた。おそらく父は世の中にどんな危険が潜んでいるかを私に教えようとしたのだろう。だが私にとっては、危険そのものよりも、その場所でそんな事件があったという事実をだれも知らないということのほうが驚きだった。みんな平気でその道を歩き、あるいはその建物に住んでいるわけで、それが私にはショックだったのだ。同じことが繰り返されないように、事件のことを書いた看板でもかけておいたほうがいいんじゃないかと子どもながら思ったものだ。……
 私たちは死の話題を避けようとするが、死というものは日々の生活のあらゆるところに潜んでいる。なにげなく使う言葉のなかにも「死」はたびたび顔を出す。……
 死から目を背けていては豊かな人生は送れない。これはなにも私だけではなく、キルケゴールからダライ・ラマまで多くの賢者たちが言っていることだ。……もちろん私たちはみないつか死んでいく。それはしかたのないことであり、くよくよ悩んでもみてもはじまらない。しかし、数多(あまた)ある危険を遠ざけ、長生きする確率を少しでも高めることができるとしたらどうだろう? ……

(平野)