週刊 奥の院 6.16

■ 現代思想』 7月臨時増刊号 総特集 吉本隆明の思想 青土社 1238円+税
 大西巨人 人間の本義における運命について   
 宇野邦一 煉獄の作法?
 安藤礼二 イエス親鸞
 芹沢俊介×高橋順一 未完の吉本隆明
 磯崎新 アイロニイをいわない吉本隆明さん
……
 松本昌次 「花田清輝吉本隆明論争」より。
 戦時中に抵抗した詩人として文学者が『新日本文学』などに登場、しかし、彼らは実は戦中に戦争協力詩を書いていた。「転向」というのはあり得る。それと戦争協力とは違う。吉本は痛烈に批判した。

……花田さんの吉本さんへの批判というのは、大雑把にまとめるならば、「戦争協力詩を書いた前世代の詩人たちを個人の名において糾弾するのではなく、時代と関連させつつ、戦後の芸術運動を高揚させることで全体として乗り越えるべきだ」というものでした。ただ戦前に思想形成をした花田さんたちの世代が戦争をひたすらに堪えながらなんとかやり過ごそうとしていたのに対して、吉本さんの世代が戦場で死ぬことしか目前の選択肢がなかった。だから吉本さんの戦争協力者に対する反発や恨みというものは、花田さんの想像も及ばないほど根深いものだったと思います。それまで花田さんと吉本さんは、お互いに評価する間柄だったのですが、こうした意識の違いと、花田さん得意の挑発が吉本さんの怒りに火をつけたのでしょうね。……

 花田は、勝つための論争をやるのではなく、自分は負けてもいいが、論争の過程で論敵の思想も発展する、その役割を果たすのが論争だ、という考えだった。吉本は「芸術運動や思想の全体的な発展のためというよりも、個人的な自力の思想構築に比重」が置かれていた。花田-吉本論争は「非常に激烈で、悪罵のやりとりも盛ん」だった。

しかし花田さんは吉本さんに向かって「刑務所に叩きこんでやりたい」とか言いながら、実はニヤリと笑っているのですね。

(平野)
「全国書店新聞」6・15「うみふみ書店日記」。
http://www.shoten.co.jp/nisho/bookstore/shinbun/news.asp?news=2012/06/15