週刊 奥の院 6.7

■ 赤坂憲雄 小熊英二 編著 『辺境からはじまる 東京/東北論』 明石書店 1800円+税
 2011.4.19 喫茶店で始まった会合。赤坂と小熊、一橋大大学院・山内(南三陸町出身)他、東北ゆかりの若手研究者が集まる。 
【小熊】


……喫茶店の広くはない談話室に、十五人ほどが集まったその会は緊迫感にあふれていた。福島をはじめ、被災地から来た数人の大学院生は話しながら泣いた。赤坂氏も「最近涙もろくなってね」と言いつつ涙を流した。 
 かねてから「東北学」を唱えてきた赤坂氏は、東北の隅ずみを歩き、被災地もくまなく知っている。知人も多い。会合の直前には、福島県南相馬市の野馬追の祭りを絶やさぬよう、知人の現地学芸員の案内で、警戒区域内の神社まで行っていた。彼の脳裏には、東北の風景、人々、歴史が、こうした破綻をむかえたなかでかけめぐったのだと思う。同席した人々も同様だろう。……
 その後、会は一橋大学で若手たちの報告を聞いていくことにする。その報告論文をまとめる。
……(論文には)共通した問題意識がある。それは、「東京」と「東北」、「中央」と「辺境」の関係に象徴される近代日本、現代社会のありように対する問いかけと、それを変えようとする模索である。
……社会の変化にともなう「衰退」と、それを無意味な巨大開発で補おうとすることに象徴される関係と問題のありようは、決して東北だけのものではない。それは現代日本に共通したものである。
「辺境」が存在しないように、「東京」も存在しない。われわれはすべて、「辺境」に住んでいる。「辺境」からはじめるとは、幻想の中央にむかって憐れみを乞うことでもなければ、遠くの誰かの災害を思いやることでもない。それは自分の足元から、現代を問うことにほかならない。

Ⅰ 東京/東北の過去と現在
第1章 東京の震災論/東北の震災論――福島第一原発をめぐって 山下祐介
第2章 全村非難を余儀なくされた村に〈生きる〉時間と風景の盛衰 佐藤彰彦
第3章 再帰する優生思想 本多創史
第4章 〈災間〉の思考――繰り返す3・11の日付のために 仁平典宏
第5章 「大きなまちづくり」の後で――釜石の「復興」に向けて 大堀研
第6章 核燃・原子力論の周辺から描く東京/青森/六ヶ所 小山田和代
第7章 多様な生業戦略のひとつとしての再生可能エネルギーの可能性――岩手県葛巻町の取り組みを手がかりに 茅野恒秀
第8章 〈飢餓〉をめぐる東京/東北 山内明美
Ⅱ 東京/東北の未来へ 赤坂・小熊対談

【赤松】

 わたし自身はおそらく、いくつもの偶然が重なって山形を離れ、東京へと還っていなかったら、まったく異なったかたちで東日本大震災を体験することになったはずだ。わたしは地震津波、そして福島原発の事故によって、つかの間離れかけていた東北に一気に引き戻されたのだった。……
 東北の被災地を歩きながら、しばしば東京を想った。東京/東北のあいだの絶妙にして捩れた、はるかにして分かちがたい関係性に、その距離に頭がくらくらする瞬間があった。いまこそ「東京/東北学」をつくらねばならない、と焦りに駆られた。……
 明日もまた、被災地をフィールドワークに、〈歩く・見る・聞く〉を続けようと思う。