週刊 奥の院 6・4

■ 片山杜秀 『未完のファシズム 「持たざる国」日本の運命』 新潮選書 1500円+税 
 1963年生まれ。慶應義塾大学法学部准教授、思想史研究。『近代日本の右翼思想』(講談社)他。音楽評論も。『音盤考現学』『音盤博物誌』(アルテスパブリッシング)など。
(はじめに)より。
 20世紀前半の日本はどんな国家として立ち、世界の列強に伍してゆこうとしたのか? お決まりの構図は、

……日露戦争での勝利と第二次世界大戦での敗北を二大エポックと見なすわけです。日本は明治に頑張って日露戦争でロシアを何とか破った。そのご褒美として比較的恵まれた大正時代を頂戴した。そこで呑気にできた。でも幸せは長く続かなかった。昭和初年の世界大恐慌で揺すぶられた。そのあとは明治ほど上手に立ち回れなかった。浮き足立つうちにタガがはずれて日米戦争にまで突っ込んでいった。そして滅びた。

 著者はこれに「ささやかな異議」を唱える。第一次世界大戦を重視する。

……人類史上初めて世界大戦の名が冠された戦争。大西洋も太平洋もロシアも西ヨーロッパも戦場になりました。期間も長い。特にヨーロッパの参戦国にとっては人的・物的資源を使い果たす戦いになりました。……
 このような新しい戦争の意味合いを、当時の日本人はどのように受け止めていたでしょうか。主戦場が遠いヨーロッパであることをいいことに多くは高みの見物を決め込んでいました。どうも実感がありませんでした。遠い世界の出来事でした。

 そんな状況を憂う作家・思想家がいた。
 軍人では、日本軍がイギリス軍とともに中国のドイツ植民地を攻略した青島(チンタオ)戦役を経験した人、ヨーロッパの主戦場を見た人たち。
 彼らは来るべき大戦争について、短期で済ませられるか、長期に及ぶのか、日本は「持たざる国」なのか、「持てる国」に化けられないのか、精神主義に頼るのか、物質主義に乗り換えるのか……。「天皇陛下万歳!」が明治・大正以上に叫ばれなくてはいけなくなったのはいったいなぜなのか。近代が進展すればするほど神がかってしまうとは、いったいどういう理屈に基づくのか……。著者は、「第一次世界大戦の影響から分岐し対立し錯綜し暴走していった諸々の戦争観・戦争哲学を読み解きつつ、近代日本に、ちょっと違った角度から光」を当てる。
目次
1 日本人にとって第一次世界大戦とは何だったのか  小川未明の懊悩 「高みの見物」と「成金気分」 徳富蘇峰、日本人を叱る
2 物量戦としての青島戦役――日本陸軍の一九一四年体験
3 参謀本部の冷静な『観察』
4 タンネンベルク信仰の誕生 (第一次大戦独露戦、独が奇襲戦法で圧倒的兵力の露軍を包囲殲滅した。日本陸軍は、指揮官の勇気と決断、勇敢な兵士を模範とした)
5 「持たざる国」の身の丈に合った戦争――小畑敏四郎の殲滅戦思想
6 「持たざる国」を「持てる国」にする計画――石原莞爾の世界最終戦争論
7 未完のファシズム――明治憲法に阻まれる総力戦体制
8 「持たざる国」が「持てる国」に勝つ方法――中柴末純の日本的総力戦思想
9 月経・創意・原爆――「持たざる国」の最期

 書名の「未完のファシズム」とは? 
(7)を読んでください。明治憲法下では総力戦・総動員体制が完成しなかった、戦時期の日本はファシズム化に失敗した、というのが著者の考え。
(平野)
◇ 「全国新聞社ふるさとブックフェア」報告
5.31をもちまして終了。ご来店、ご購入に感謝。
● 売り上げ冊数 389冊 
? 神戸新聞総合出版センター 176冊
? 河北新報出版 37冊
? 京都新聞出版 17冊
? 北國新聞社  17冊
? 北海道新聞社 13冊

 地元社「神戸新聞総合出版センター」の第1位は当然。2位の「河北新報」は東日本大震災関連本が多数出ました。
 売れ行き良好書は、岐阜新聞社『よくわかる日本のやきもの』、奈良新聞社『記・紀にみる 日本の神々と祭祀の心』、西日本新聞社『はじめての糀料理』など。北海道新聞社『北海道の歴史(上・下)』は最初の2日で計5冊売れて追加をしてもらったのに、その後はゼロ。そんなもんですな〜。
 出品してくださった各社の皆様に重ねて御礼申し上げます。来年もできたらいいなと思っています。ではでは。