週刊 奥の院 5.12

◇ ちくま文庫の新刊
■ 由良君美 『みみずく偏書記』 1100円+税
 元版は1983年青土社より。
 由良君美(1929〜1990)は英文学者、専門はイギリスロマン主義の詩。慶応義塾大学助教授から東京大学助教授、76年教授。
目次
読書狂言綺語抄  みみずく偏書記  書志渉猟  わたしの読書遍歴  半能率的読書法  辞書とのつきあい  書物についての書物  あと智恵の弁

本を読み、それをもとに考え、そこからなにか妙なものを産み出すという以上は、ただ読むという受動的なことにとどまらない、いろいろヒネッタ頭の働きが必要になることは言うまでもない。
 わたしの場合、とくに極意のような読書法をもっているわけではない。ただ、要するにひたすら書狼に徹し、いちずに書物を漁り、ひたむきに読んできた歳月の積みあげだけであるが、ときに天来の妙案なきにしもあらず。その折それらを筆にしてみただけのこと……。
(読書に技術なし)
……書物の世界は奥行きが恐ろしく深いということだ。わたしなど、五十を過ぎていまだに〈読書奥の院〉の下足番をようやく許されている所であろうか。……

 書物・読書だけではなく、出版界全体の問題にも言及。

解説:富山太佳夫
……本の買い方(古本屋の話を含む)。読み方(辞書や辞典の読み方も含む)、図書館の使い方を始めとして、短い自伝的な話も交えながら、英文学、国文学、哲学、美術他の話など、仰天するか、首を傾げるかしかない。殆ど誰も知らないようなネタがここには溢れている。……

 
カバーの絵は著者、デザインは間村俊一
 




 物置から引っ張り出してきた単行本。帯なし、カバー少々ヤケ。カバーの絵は、ピーター・ブルックス「みみずく」。    

■ 大竹伸朗(しんろう) 『ネオンと絵具箱』 950円+税  著者は1955年東京生まれ、美術家。愛媛県宇和島市在住。
http://www.art-it.asia/u/admin_interviews/G8fRld6qZpYwPgUH9JbO/
1 ネオンと絵具箱 

2 路上と絵具箱
3 日毎と絵具箱
 2003年〜11年のエッセイ。カバーの絵他、作品写真も。カバーデザインは小関学。第1章のみ06年月曜社より単行本。
「ネオン」「絵具」とは?
 JR宇和島駅改装時に、ネオン管組み込みの駅名文字盤を譲り受けた。
「……昔駅の上に戦前から灯っていたであろう[宇和島駅]ネオンの色を想像し[赤]を入れ……」
展覧会場に取り付けた。ヨソ者の自分には感傷や思い出はないが、真夜中に一人眺めると、
「自分がどこの何者であれまたどの地であれ、夜空ににじむ四つの文字の発光体はいつも真っ赤なネオン星と化して内に流れる血の中に散らばっていくのを感じる。……」
 その色を業者の人と相談。業者のサンプルケースから色とりどりのネオン管が出てきた。
著者は、そのケース自体が理想の作品に見え、見とれる。嫉妬心も。
「コレ、かっこいいですね。コレ凄いですよ……」
「……そうですか? どこがですか?」
「このケース全体ですよ。これ展示したいですね。もう出来上がってますね、何もする必要ないですよ。パーフェクトですね」
■ 丸谷才一 『快楽としての読書 [海外篇]』 1000円+税 
「イギリスの書評に学ぶ」プラス「書評」114篇。聖書、ギリシア古典から現代文学、推理・冒険小説も。
 

鹿島茂の解説。
……世にこれだけ「お得」な文庫はない。お得であるばかりか類書のない文庫であるとさえいえる。
(その理由)本書を通読するだけで、世界文学の「通」になれるだろう。
(文学解説書・あらすじ本との違い)どの作品も「書評」として書かれていることである。
(書評は)人から人へと「受け売り」されることを前提にしてかかれなければならないということである。再話性に耐え得ることが必要条件だから、すでにそれだけでも相当にレベルが高くなっていなければならない。
(内容紹介だけではなく評価という要素、文章の魅力、そして、批評性)
丸谷才一の書評は二度読め! 作品を読む前と読んだ後に」

 絵、デザインは和田誠
■ 半藤一利 『荷風さんの昭和』 840円+税 
 絵は著者、デザインは神田昇和。
 元版は1994年プレジデント社『荷風さんと「昭和」を歩く』。2000年文春文庫『永井荷風の昭和』に改題。
(帯)戦争に向かう歴史の大情況と下町を徘徊する文豪の日常が交差する
 冒頭、荷風の死直後に「週刊文春」(昭和34年5月18日号)に掲載された「荷風における女と金の研究」の書き出しが引用される。

(棺には)花一つおさめられるでもなかった。愛用のベレエも、時計も最後の最後まで読んでいた洋書も、なに一つ身についていたものを、なきがらはたずさえていなかった。ゆかたが一枚さかさにかぶせられ、三文銭をいれた袋が胸のうえにそっとおかれた。そしてふたがあっさりとかぶせられた。
 文豪の最後としては、さびしすぎる一瞬であった。……

 記者だった著者が書いた文章。
(平野)