週刊 奥の院 5.12

■ 関川夏央 『「一九〇五年」の彼ら 「現代」の異端を生きた十二人の文学者』 NHK出版新書 780円+税 
 1905(明治38)年とは、日露戦争勝利の年。
 5月27日午後、対馬海峡東方での海戦、日本にとっては一大決戦。それに勝利。国民は熱狂する。
「国民的一体感の共有こそ、国民国家完成の瞬間だった」
 しかし、9月、ポーツマス講和条約に国民は不満。

 戦争のために払った人命犠牲と増税の痛みは、講和の「軟弱」な条件では癒されない、戦争を継続せよ、ロシア沿海州を日本領とするまで戦うべし、と国民は叫んだ。
 リアルな感覚を持っていたのは政と軍、より好戦的であったのは民と新聞という逆転がこのとき生じた。やがて新聞は実情に気づき、国民も冷静さをやや回復したが、国民大衆の政治的圧力はもはや無視できないものとなり、大衆が示威行為で桂太郎内閣を倒す「大正政変」へとつながる。……

「大衆が政治的実力を持つ時代、成長する中間層を核に大衆文化が花咲く時代、しかし衆愚政治の危険と背中合わせの時代」のはじまり。まだ明治38年だが、「大正・昭和の発端した年」、「現代のはじまった年」。 
著者は、この1905年に青春期または人生の最盛期にあった人々こそ、現代人の原形であろうと、著名文学者を例に、彼らの、この年と最晩年を見せてくれる。
現代日本の成立と成熟、そして衰退までも暗示できるのではないか……」
森鷗外 熱血と冷眼を併せ持って生死した人
津田梅子 日本語が得意ではなかった武士の娘
幸田露伴 その代表作としての「娘」
夏目漱石 さいごまで「現代」をえがきつづけた不滅の作家
島崎藤村 他を犠牲にしても実らせたかった「事業」
国木田独歩 グラフ誌を創刊したダンディな敏腕編集者
高村光太郎 日本への愛憎に揺れた大きな足の男
与謝野晶子 意志的明治女学生の行動と文学
永井荷風 世界を股にかけた「自分探し」と陋巷探訪
野上弥生子 「森」に育てられた近代女性
平塚らいてう(明子) 「哲学的自殺」を望む肥大した自我
石川啄木 「天才」をやめて急成長した青年
(平野)