週刊 奥の院 5.5

■ 『別冊太陽 石川啄木 漂泊の詩人』 平凡社 2300円+税
 没後100年。
目次
啄木の歌との対話 『一握の砂』と『悲しき玩具』 人生という小宇宙 他
啄木名作の栞 未完のままに残した多くの仕事  啄木文学の魅力 石川啄木名作小事典 「啄木日記」の魅力 他
啄木の生涯 哀切の生涯の素描  人間・啄木の素顔 生き急いだ二十六年の生涯 他

 金田一京助が京都にいる中学時代の同級生に宛てた手紙がある。啄木が「明星」で認められたこと、故郷の友のこと、お互いのこと、啄木の病のこと……。
京助の孫にあたる金田一秀穂がその手紙を読んで、語る。

……共通の友人が嬉しかったのだろう。啄木という稀有の天才と起居を共にする高揚感もあったろう。何より長い手紙を書ける時間がたっぷりあったのだろう。二人とも、前途への大きな希望と不安があるなかで、あふれる時間を持て余しながら、無為の時を過ごしている。とりとめのない茫洋とした気分を、この手紙が伝えてくるように思える。
 啄木は京助に迷惑をかけたというのが通説であるけれど、明らかに京助は幸せそうである。東京に出てきた先輩として、後輩の啄木が自分を頼ってきてくれたことが、嬉しくて仕方ない。啄木も、あまり遠慮をしているようではない。このようにして、この時代の地方出身者たちの将来が開けていったのだ。人と人とのつながりが今よりずっと濃かった明治の青春である。


■ 『日本の歳時記』 平凡社コロナ・ブックス 1800円+税
 季語を、時候・天文・気象・地理・人事・祭礼・信仰・動物・植物に分けて掲載。日本の四季折々の事象や日本人の感覚を、言葉と絵や工芸品で表現する。
 この季節だと、「風薫る

……薫風・薫る風・風の香。
 初夏に風が若葉のうえを渡り、花や草の香りを含んでさわやかに吹くこと。風が緑の香りをはこぶイメージで、夏の南風の快さを表した言葉である。またよく似た感じの風に、「青嵐(あおあらし)」と呼ばれる五月から七月の若葉のころや強く吹く南風がある。
 薄月やすれあふ人に風薫る  鳳朗
 風の香も南に近し最上川  芭蕉
(絵、鏑木清方「薫風」[大正7(1918)年頃])
(絵はこちらで) http://www.ccmanet.jp/exhibition_end/2005/0521/05_0521.html
川面を吹き過ぎる薫風に、若い女性の羽織った衣もなびいている。
川岸を咲く薊や紫陽花の花も同じように揺らいでこの風を楽しんでいるようだ。

 夕立の絵も美。竹内栖鳳の絵「アレ夕立に」

http://www2u.biglobe.ne.jp/~fisheye/artist/nihonga/seihou.html
(平野)