週刊 奥の院 5・4

今週のもっと奥まで〜
■ 草凪優 『夜より深く』 新潮文庫 590円+税
 東北のホテルマン梶谷35歳、同僚の由紀子23歳と不倫。宴会場での××がバレて仕事も家庭も失う。しかし、東京で家出妻たちとハーレムを築く。
 最初、梶谷は有希子に軽くあしらわれる。プライドを回復するのに3日かかる。帰りに待ち伏せ

「少し時間あるかな?……納得が……いかないんだ……この前の件、どうしても……」
「納得がいかないと言うのは、どういうことでしょうか?」
 梶谷は有希子に気づかれないように呼吸を整えた。有希子は落ち着いている。ここでこちらが取り乱したりしたら、前と同じ轍を踏むことになる。せっかく挽回のチャンスが与えられたのだから、男のプライドを回復せずにいられようか。
「そりゃあ納得いかないに決まってるよ」
「抱きたいってことですか?」
(まずいぞ、なんか……)
 梶谷は本能が危険を知らせるサイレンを鳴らすのを聞いた。有希子を口説こうと思ったのは、彼女が都合のいい女に見えたからだ。
 だが、有希子から伝わってくるのは本気の恋愛感情だった。ハートに火がついた途端、まわりがいっさい見えなくなる、恋する女の眼をしていた、
 温度差がありすぎる、と梶谷はおののいた。引き返すならいましかないと、もうひとりの自分が耳元で叫ぶ。
 しかし、できなかった。……

 
(平野)