週刊 奥の院 4.30

■ 上原善弘 『異貌の人びと 日常に隠された被差別を巡る』 河出書房新社 1600円+税
『日本の路地を旅する』(文藝春秋)で大宅壮一ノンフィクション賞被差別部落問題を中心に取材・執筆。
 本書では、スペインの被差別民カゴ、ネパールの不可蝕民バディ、シチリアのマフィア、パレスチナの人々、バグダッドのロマ、サハリンのウィルタ、を取材。
(あとがき)より。

 路地の出身者が、外国の被差別民や迫害の現場をルポすることなど、所詮は異邦人による居丈高な自慰行為にすぎないのではないか。そう何度か自問したことがある。
 しかし、それでも外国に通った。そのときはこの衝動をどう説明して良いかわからなかったのだが、今になれば路地(同和地区)のような極めて土俗的で日本独特の問題を俯瞰し、比較するために外国の取材が必要だったと思うのだ。
 そして外国の下層社会を取材することで、日本の下層社会に通底するものを捉えることができればと考えていた。戦争も同じようなもので、日本の戦争を書くには外国でも構わないから、実際の戦闘や現場を知っておいたほうが良いと思っていた。……

 パレスチナでのこと。街中での銃撃は日常で、銃弾によってコンクリート片が顔面に当たる。携帯電話に日本から着信。恋人から別れの電話。

(上原) 馬鹿ッ、それどころじゃないんだよ。いま撃たれているところなんだよ。この銃声が聞こえないのかよ。
通信は途切れる。再び着信。
(上原) 話せる状況じゃないんだ。
(女性) もう話さなくていい。

また途切れた。彼女には悪いと思うが、今の自分には電話よりもパレスチナの人々の状況をレポートするほうが大事だった。
2002年10月のこと。
(平野)
◇ 全国ふるさとブックフェア(13)
◆ 神戸新聞総合出版センター http://ec.kobe-np.co.jp/syuppan/html/
 今回フェアの幹事出版社。実を申せば、各出版社との交渉など雑務すべてを、営業T氏がしてくださった。私、ただ並べて、当欄でゴチャゴチャ書いているだけです。感謝。
 地元なので当然出品点数・冊数とも最多。書ききれないので、注目の新刊2点を紹介。 
■ 辻川敦・大国正美 編著 『神戸〜尼崎 海辺の歴史  古代から近現代まで』 1700円+税
1 古代  西摂の古代人と海のつながり 万葉集から読み解く風景 畿内の西の境界を考える 平安貴族が記した西摂と福原
2 中世  神戸・阪神地域の荘園 合戦と交通路 軍記物・旅行記に描かれた西摂 中世都市尼崎の景観復元
3 近世  交通網整備と海辺風景の変化 海辺の支配と神戸〜尼崎 江戸積み酒造業・灘の風景点描 幕末の海防と地域社会
4 近現代  鳥瞰図に描きこまれた近代の神戸 電鉄経営が生んだひと時の「海村モダニズム」 戦後初期尼崎における公共建築 臨海工業地帯の歴史地理

2010年、神戸史学会が尼崎の市民団体などと連携して実施した「神戸・阪神歴史講座」での講演をもとに。
地域の多様性と共通項、海との関わり、東西交通の要地、港の存在と都市形成、景観と人々の営みについて考える。

■ 西谷勝也 写真  小栗栖健治・久下正史 編集 『ふるさとの原像  兵庫の民俗写真集』 1900円+税 
1 民俗芸能  鬼追い 追儺式 他
2 民俗芸能  四季の郷土芸能
3 年中行事とまつり  共同体・ムラ(村)の祭祀
4 年中行事とまつり  イエ(家)の祭祀
5 暮らし・生業
6 景観

西谷(1906〜69)は柳田國男に師事した民俗学者で、高校教諭のかたわら、県下の民俗学資料を収集した。祭り、農耕儀礼など年中行事を研究。