週刊 奥の院 4.29
■ 笹沢信 『ひさし伝』 新潮社 3000円+税
評伝、496ページ。
著者の略歴。昭和17(1942)年京城生まれ。戦後山形県に引き揚げ。中学から高校までは大分県在住。山形大学卒業後、山形新聞で長く文化欄担当。かたわら一般雑誌に小説、歴史エッセイを発表。平成6(1994)年、『飛鳥へ』(深夜叢書社)で山形市芸術文化協会賞。10(1998)年新聞社を退社し、出版社「一粒社」設立。
井上ひさしは、昭和9(1934)年山形県東置賜郡小松町(現・川西町)生まれ、15歳まで育つ。昭和62(1987)年、蔵書7万冊を川西町に寄贈、図書館「遅筆堂文庫」開館。ここで21年間「生活大学校」開講。
著者は、本書執筆にあたり井上の「自筆年譜」(いろいろな著作に付されている)を参考にしているのだが……、
ひさしの「自筆年譜」なるものは彼の作品のように愉快で面白い。しかし「自筆」だからといって鵜呑みにし全面的に信用していいものか。誕生日からして怪しい。どうやら、ひさしには、書くものすべて「創作」だという意識があり、過剰なまでの読者サービスに由来する文飾が見られるようなので、(唾で眉を湿しながら)読む必要がありそうである。……
私も、井上の本屋での「万引き」常習についてふたつの話を読んだ。ふたつとも発覚して改心し、決して繰り返さないと誓っている。ふたつ目を知ったときに、「やられた!」と悟った。
目次
1 本が父親
2 ストリップ界の東大に入学
3 ひょっこりひょうたん島と日本人のへそ
4 手鎖心中と直木賞受賞
5 吉里吉里人とイーハトーボの劇列車
6 こまつ座旗揚げ
7 遅筆堂文庫とコメの話
8 ヒロシマと日本国憲法
9 東京裁判三部作
10 あとにつづくものを信じて走れ
井上ひさし略年譜
ひとりで井上の評伝を書くという作業は難業と想像する。本書は書き下ろし。著者自身「無謀ともいえる試み」と語る。
井上ひさしは〈巨大な知の発光体〉である。分光器に通すと多様なスペクトルが見えてくる。戦争・憲法・国家・言語・医療・農業等々である。当代第一流の〈知の巨人〉の守備範囲は広い。それらの課題に対して、ひさしは生涯、自らが創った座右の銘である〈むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに〉ユーモアを交えて語りつづけた。……
(平野)
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