週刊 奥の院 4.14

今週のもっと奥まで〜
■ 有吉玉青 『美しき一日の終わり』 講談社 1900円+税
「いちじつ」と読む。
(帯) 年老いて、なおつのる思い。五十余年の純愛が実を結ぶ一日。
 老いてからの恋ではない。幼い日からずっと忍んできた愛。異腹とはいえ血のつながる姉と弟。「禁断」と片付けられるだろうか? 姉70歳、弟63歳。ともに身体は不自由、病を抱え、人生の最終章で思いを遂げることを、認めてあげたい。
 父が家に連れてきた少年・秋雨(しゅうう)は美妙(びみょう)より7歳下の異母弟だった。彼の母親は、父の後輩の戦争未亡人。美妙の母は当然彼に冷たい。弟は立場をわきまえ耐える。姉は懸命に弟を見守り支える。彼は大学進学を機に家を出る。父が亡くなると大学を中退。彼に恋人ができ結婚が決まると、姉は見合い結婚。姉は家庭的に順風だが、弟は離婚、再婚、子が病死、離婚、自らも病む。互いに思いを秘め、それぞれの人生を歩んだ。取り壊しの決まった古い家で会う約束をする。思い出の日、十三夜。弟は病院から来た。ともに暮らした日々をなつかしみ語り合う。それは戦後昭和史のできごとと重なり合っている。政治社会問題だけではなく、庶民の風俗・流行・テレビ番組も。

…… 「ぼくはもう長くない」
 美妙はゆっくりうなずいた。
「今日、会えてよかったわ」
「月を一緒に見られてよかったです。おねえさんのお弁当も、食べられてよかったです。ごちそうさまでした」
 今日、秋雨が来なければ、来ないでいいと思っていた。病気が悪くて出てこられないかもしれない、あるいはその前に秋雨が死んでしまうかもしれない。そのときはこの家で、ひとり、月を見て、京香(娘)の家に帰ろうと思っていた。……
「おねえさん」
 秋雨が手を伸ばし、美妙をいざなった。
 美妙は秋雨の目の中の月を見ていた。月にさそわれていた。……

ふたりにとって、「美しき一日の終わり」は「美しき人生の終わり」でもある。
(平野)