週刊 奥の院 3.25

■ 竹中労 著  かわぐちかいじ 画
『黒旗水滸伝 大正地獄篇 (1)〈2〉』 皓星社
 新装版 各1200円+税 (3)(4)続刊。
  
 もともとは、1975〜80年『現代の眼』に連載。竹中は「夢野京太郎」と名乗った。2000年、皓星社より出版。解説の栗原幸夫によると、当初は、第1部「大正煉獄篇」、第2部「昭和煉獄篇」、第3部「戦後浄罪篇」が構想されたが、第1部のみで終わった。大杉栄、テロリスト難波大助を中心に無政府主義者社会主義者、市井の人々と「大正」時代を描く。

「大正」(1912〜26年)とはどういう時代であったか。それは一口で言って「現代」という時代の始まりであった。「戦争と革命の時代」としての現代、資本の増大に比例してますます進行する貧困と抑圧と人間疎外、同時にそのまっただ中から噴き出す反逆と自由と解放への希求、――第一次世界大戦(1914〜18年)とロシア十月革命(1917年)は、このような絶望と希望がそのなかで渦巻く大過渡期としての「現代」の幕開きだった。

 過渡期を象徴する場所。山谷、浅草十二階下私娼窟……、さまざまな人物が集まっていた。
 

竹中「美的浮浪者の群れ」
 

ニヒリスト辻潤――、浅草の札差の家に生まれ、生涯を放浪と(みずから称する)“無思想”の実践に、燃焼し尽くした彼は、衆知のように大杉に妻・伊藤野枝を奪われた。[ブルジョアが外道なら、プロレタリアは餓鬼です][大衆の意向を最善であるかのように考えることに、わたしは反対だ]と、民衆を私物化することなく、無幻想の極北を生きた辻潤と、彼をめぐる美的浮浪者の群れを登場させよう。『大正地獄篇』の真の主人公は、物語を点綴(てんてい)する、彼ら無用の人びとである。

 獏与太平(ばくよたへい、浅草オペラの作者、映画監督)、宮嶋資夫(作家のち出家)、笹井末三郎(ヤクザ)、高田保(劇作家、新聞コラム「ぶらりひょうたん」)、武林無想庵岡本潤高橋新吉林芙美子添田唖蝉坊内田吐夢阪東妻三郎大泉黒石……。
(平野)