週刊 奥の院 3.24

■ 大杉榮 『獄中記』 大杉豊 解説 土曜社 952円+税
 同社、「大杉榮」3冊目の本。底本は1919年春陽堂版。
 「一犯一語」。大杉は入獄のたびに外国語を習得したと言われる。

……僕の今日の教養、知識、思想性格は、すべてみな、その後の入獄中に養いあげられ、鍛えあげられたといってもよい。二十二の春から二十七の暮れまでの獄中生活だ。……
 僕の知情意はこの獄中生活の間に初めて本当に発達した。いろいろな人情の味、というようなことも初めて分かった。自分とは違う人間に対する、理解とか同情とかいうようなことも初めて分かった。客観はいよいよますます深く、主観もまたいよいよますます強まった。……

 妻・保子に本の差し入れを頼んでいる。社会学、生物学、人類学、経済学、内外の文学……。

……読書はこのごろなかなか忙しい。まず朝はフォイエルバッハの『宗教論』を読む。アルベール(仏国アナーキスト)の『自由恋愛論』を読む。午後はエスペラント語を専門にやる。……夕食後、就寝まで二時間余りある。その間はトルストイの小説集を読んでいる。
……エスペラントは面白いように進んでゆく。今はハムレットの初幕のところを読んでいる。英文で読んだことはないが、仏文では一度読んだことがある。しかしこんどほど容易(たやす)く面白くはなかったようだ。
……年三十にいたるまでには必ず一〇カ国語の言葉で吃ってみたい希望だ。それまでにはまだ一度や二度の勉強の機会(!)はあるだろう。……

 大杉の入獄。
1906年3月「電車事件」で3ヵ月収監。
07年「青年に訴ふ」翻訳で1ヵ月半。「新兵諸君に与ふ」翻訳で4ヵ月。
08年「屋上演説事件」1ヵ月半。「電車事件」判決1年半。「赤旗事件」判決2年半。「電車事件」と併合。

カバージャケットの絵は、1919年8月林倭衛が描いた「出獄の日のO氏」。警官殴打で収監、罰金刑で保釈後。
「僕は監獄で出来あがった人間だ。牢獄生活は広い世間的生活の縮図だ。……」春陽堂広告より)
(平野)