週刊 奥の院 3.21

 東(ひがし)雅夫 『文学の極意は怪談である  文豪怪談の世界』 筑摩書房 1800円+税
 冒頭に三島由紀夫の文章を引く。

内田百輭牧野信一稲垣足穂」(中央公論社「日本文学」シリーズ第34巻解説)
 アーサー・シモンズは、「文学でもっとも容易な技術は、読者に涙を流させることと、猥褻感を起させることである」と言っている。この言葉と、佐藤春夫氏の「文学の極意は怪談である」という説を照合すると、百輭文学は、人に涙を流させず、猥褻感を起させず、しかも人生の最奥の真実を暗示し、一方、鬼気の表現に卓越している。このことは、当代切ってのこの反骨の文学者が、文学の易しい道を悉く排して最も難事を求め、しかもそれに成功した、ということを意味している。

 
佐藤春夫稲垣足穂  本物の化物屋敷に暮らす 
川端康成  心霊と性愛に憑かれたまま
三島由紀夫  幽明の境界を超えゆかん
幸田露伴  白鳥の歌たる怪を語りて
夏目漱石  夢文学の系譜、ここに始まる
森鷗外  抑圧の窮み、妖異は沁み出す
柳田國男  怪談の真贋を鑑定する
泉鏡花  不思議を書いて凄く思わせる
芥川龍之介太宰治吉屋信子、他。
 日本文学史を「怪談」の視点から評論する。
「怪談を極めることと文学を極めることとは、いずれが後とも定めがたい、尽きることなき探究の営み」 
 著者は、怪談専門誌『幽』編集長、ちくま文庫〈文豪怪談傑作選〉全18巻編者。昨年『遠野物語と怪談の時代』(角川選書)で日本推理作家協会賞(評論その他の部門)受賞。
 書名となった箴言佐藤春夫の作品・文章では確認できないそう。三島との座談で話した言葉と推測される。
(平野)