週刊 奥の院 3.20

■ 岡崎武志 『ご家庭にあった本  古本で見る昭和の生活』 筑摩書房 1800円+税
 著者が古本屋巡りの際に衝動買いした本の中から、「昭和」という時代の手触りのようなものを紹介する。 
大人の男はどこに消えた  前田一『サラリーマン物語』東洋経済新報出版部 昭和3年  若山均『宴会、招接待のすべて』池田書店 昭和31年  林光一『ルンペン学入門 放浪の詩』ベップ出版 昭和51年 他
憧れの大東京  東京市役所・萬朝報社共編『十一時五十八分』萬朝報出版部 大正13年  木村荘八『南縁随筆』河出市民文庫 昭和26年  戸川昌子猟人日記講談社 昭和38年 他
科学とリクツ 正木不如丘『療養三百六十五日』 実業之日本社 昭和11年  鈴木敬信『星と宇宙とプラネタリウム』 東日天文館 昭和13年  『お茶の間科学事典』朝日新聞社 昭和41年 他
暮らしの片すみ 『昭和弐年度(「弐」は旧字)春夏物帽子カタログ』江指商店帽子部 昭和二年  山本留治郎『社内サービス研究』オーム社 昭和9年  『美容院と理髪店2』彰国社 昭和45年 他
時代をうつす本 小夜福子『おひたち記』宝塚少女歌劇団 昭和十五年  桜田常久『従軍タイピスト春陽堂文庫 他
ぼくの時代 阿川弘之『なかよし特急』中央公論社 昭和34年  『これが万国博だ』サンケイ新聞社 昭和44年  「中一時代」旺文社 「PocketパンチOh!」 「プレイガイドジャーナル」 他

 本は時代を反映する、内容もタイトルも。その時代のことをもっと知りたくなる。著者にも興味をもつ。
 浜野修『酒・煙草・革命・接吻・賭博』(出版東京、昭和27年)という本がある。
 岡崎は、著者についても詳しく知らず、内容もわからず、
「タイトルがおもしろいという一点で釣り上げて」しまった本。
「この野放図な羅列がすごい」
 浜野はドイツ文学者。昭和9年に『酒・煙草・賭博』(丸之内出版、)を出していて、その焼き直しと考えられる。いわゆる「西洋雑学知識の泉」という本。
「革命」と「接吻」を加えたのが効果的で、戦前の著書に華を添えることになった。 
 戦前には到底つけることができなかったタイトル。
 岡崎は、上林暁の作品に浜野の姿を見いだす。上林の一連の病妻ものに登場する友人が「浜野」だろうと。
「独逸浪漫派の文学に傾倒していて……数年前夫人を喪って、家を畳み、今は女学校の一年生である娘とアパート住まい……」 
 浜野は大正末期から昭和18年まで数多くの翻訳を手がけているが、途絶えた期間の苦労を岡崎は想像する。この本のあと続けて翻訳を2冊出版。ちょうど出版界は全集ブームで好況。

……ドイツ文学者の浜野の出番はこれから、という時だったが、昭和32年に60歳でなくなる。「不幸ばかり背負って来ている」と上林に書かれた浜野は、背負った荷物を下すことはなかったらしい。

 1冊の古本から、岡崎はこんな文章を紡いでくれる。
(平野) 教科書期間中は朝礼なしで、新刊紹介も休止です。