週刊 奥の院 3.16

■ 碧野圭 『書店ガール』 PHP文芸文庫 686円+税  
 本屋を舞台にした「お仕事」小説。仕事でも私生活でも、感情的に敵対していた二人の女性。職場の危機に立ち向かう。07年刊行の『ブックストア・ウォーズ』改題。
 世の中に、女性ほど敵に回して恐ろしい……失礼、手強いものはない。しかし、味方にしてこれほど心強いものもない。野郎なんぞ頼りにはならん。敵でもちょろい。本書の幹部や腰ぎんちゃく共を見よ! (男共、悪者にされているけど、お話だから)
 女性との付き合いというかコミュニケーションは難しい、と敢えて申し上げる。高校の英語の先生がよく言った。
「女というものは扱いにくい。褒めりゃあつけ上がる、怒りゃあふくれる、どつきゃあ泣く、殺したら化けて出てくる」
 そう言いながら、質問は女子にする。男子は一部を除けばアホばっかりだから、授業が進まぬ。
 さて、女性のケンカは、しつこい、長引く、ドロドロ……、旧作に増してさらにエグイ戦いが展開される。それでも、互いの利害が一致すれば、また相手を認めれば手を結ぶことも躊躇しない。何より、彼女たちは有能で、本と本屋に対して熱い思いを持っている。実は似た者同士がぶつかり合っていたのだ。
 男はあきまへん。無能のくせに威張る、立場が悪くなると逃げる。私は決して威張らないけれど、無能と逃亡については自信がある。当店でも、現場の大事な仕事(客注品の問題、苦情処理など)は、マドンナたちの力で処理できている。感謝の日々である。
 本書、頑張る女性の「お仕事小説」だが、その一言で片付けられない。恋愛小説であり、家族小説、さらに吉祥寺という街を取り上げる都会小説。そして、本屋を舞台にしていることで、これは、著者・碧野圭だから書けた作品と断言しよう。彼女ほど本屋の現場を訪れ、書店員と直接話す作家はいない。少なくとも海文堂が「本屋訪問チャンピオン」と認定する。現場の実情を知り、出版社の立場・作家の立場・お客の立場からの視点も持っている。何よりも彼女の本と本屋への愛が語られている。
 主人公は閉鎖の決まった店をスタッフと協力して立て直し、継続を求めるが叶わない。電子書籍部門への異動を断わり辞表を出す。
「…電子書籍は本ではない。データだ。本とは別のものだ。本屋はお客様や営業の人や書店員、いろいろな人間がいて、直接会って話したり、ときにはぶつかりあって何かが生まれる。本という物を媒介に人と人が繋がっていく。それが書店だ。私が好きな書店というものだ。……」
 本書は、働く女性へのメッセージであり、元気がなくなりつつある本屋へのエールだ。旧作に手を加えてまで出版してくれる著者の愛、私、しっかり受け止めた。
(平野)『ほんまに』14号に寄稿くださいました。私、毎週ラブレターを送り続けています。