週刊 奥の院 3.1
■ 森岡正博 『生者と死者をつなぐ 鎮魂と再生のための哲学』 春秋社 1600円+税
私はなぜ生きているのか、時はどうして過ぎてゆくのか、過ぎ去った時は、もう二度と戻ってこない。私たちはもう以前の世界には戻れない。震災以前の世界に戻ることは不可能である。……
阪神淡路大震災では人々は火の海に焼かれた。東日本大震災では津波に呑まれた。津波の映像を見ているうちに、私の身体から書くエネルギーが奪われていった。それから1ヶ月のあいだ、私は一枚も原稿を書くことができなかった。……
(津波に襲われた人々の死を想像する)
私はなぜ生きているのか、時はどうして過ぎゆくのか、私はなぜ他人になれないのか、私はここに哲学の重要課題を見る。
いま私にできることは、この問題を何度も考え抜いて、言葉で表現できるぎりぎりのところまで迫っていくことだ。小さな思考の断片を数珠のようにつないで、なにか大きなものの輪郭を描いていくことだ。
哲学者、大阪府立大学教授、生命学、哲学、科学論。
死んでいった人たちは、姿を変えて、私たちの前に戻ってきているのではないか。だから、私たちは死んでしまった人たちに見守られて生きているのであり、ときおり彼らと対話することすらできるのではないか。そのような経験に支えられることで、私たちはこの世界をより良く生き抜けるのではないか。
タイトルを『生者と死者をつなぐ』とした意味。
死後の魂を信じていない。それでも、
「死んでしまった人たちは、魂という形ではない別の姿を取って、わたしたちの前に現われる。生きるとは、死者とともに生きること」
大震災以前の文章もある。生とは、死とは、なぜ生きなければならないのか、を考える。
(平野)