週刊 奥の院 1.23
別冊太陽(平凡社)2点。
■ 『南方熊楠 森羅万象に挑んだ巨人』 2400円+税
没後70年。監修は中瀬喜陽(田辺・熊楠顕彰館館長)。
熊楠は短歌・俳句に歌われている。昭和天皇の歌が有名。
雨にけふる神島を見て紀伊の生みし南方熊楠を思ふ
かつて紀伊田辺で熊楠は天皇に御進講。30数年を経て天皇が詠んだ。
熊楠がこれほど注目を集める背景は何なのか。近年叫ばれる自然保護の先駆者、海外との学術交流のあった国際性、専門という狭い世界に閉じこもらない学問の幅、いろいろ挙げることができると思うが、私は総じて熊楠の持っている人間味ではないかと考えている。…… (中瀬)
平凡社は『南方熊楠全集』(全10巻別巻2巻)を刊行した。東洋文庫、コロナ・ブックスも。
■ 『森鷗外 近代文学界の傑人』 2300円+税 生誕150年。監修山崎一穎(津和野・鷗外記念館館長)。[
目次
鷗外の生涯
鷗外という鉱脈
父なる鷗外
鷗外文学の森
鷗外の脳内
終焉にみる鷗外の思想
軍医にして作家として生きる鷗外の存在は、陸軍省内では目障りな存在である。組織は組織内で一元的に生きることを要求する。それに従わない鷗外は、小倉に転出を命じられる。これを鷗外自身左遷と受け止めている。……
鷗外は小倉という僻陬(へきすう)の地にあって、ヒト・モノ・コトに遭遇し、現実から学んでいく。そして逆境にあって自己を見詰め直していく。鷗外には小倉時代という逆境(影)があり、それを乗り越えた故に晩年の光が輝くのである。
科学技術文明の輸入による富国強兵の道を歩む国家の近代化と、鷗外個人の抱え込んでいる精神文化を基調とする近代化の方向には、矛盾やずれが生じてくる。鷗外の明晰な頭脳と合理的思考は、しばしば壁に突き当る。その意味では時々刻々、挫折感を味わった生涯であった。(山崎)
(平野)