週刊 奥の院 1.18

■ 大澤真幸 編著 『3・11後の思想家25  いまこれから読むべき思想家』
THINKING O EXTRA ISSUE
左右社 
2500円+税
25人の思想家の仕事を、3・11と関連づけながら紹介し、批評。 
3・11後に思想家を読む  大澤
ジャン=ジャック・ルソー  「市民」であるとはどういうことか?  上野大樹
イマヌエル・カント  「小さきもの」の定言命法  蓮尾浩之
ウラジミール・イリイチレーニン  電気の誕生とカーニヴァル  今田勝規
マルセル・モース  挑戦としての贈与  倉島哲
九鬼周造  偶然性と共に生きる  小倉敏彦
マルティン・ハイデガー  地球に人殺しではなく詩人として住むために  
ギュンター・アンデルス  「時代おくれの人間」として在ることは  加藤裕治
ハンナ・ヨナス  震災以後の社会で果たすべき「責任」とは  蓮尾
ハンナ・アーレント  政治と生命/生活の再定義にむけて  郄谷幸
レイチェル・カーソン  「べつの道」の可能性  木村純
ジョン・ロールズ  ロールズ性議論の「救済」  西川純司
二クラス・ルーマン  「経験主義」のラディカリズム  北田暁大
網野善彦  「無縁」の否定を超えて  中森弘樹
バーナード・ウィリアムズ  道徳における運  吉川浩満
見田宗介  〈三代目〉の社会へ  大澤
高木仁三郎  3・11を予言した市民科学者の両義性  武田徹
ジャン=ピエール・デュピュイ  灰をかぶったノアに人びとは協力する  大澤
柄谷行人  『世界史の構造』――3・11後の思想的射程  郄澤秀次
今村仁司  贈与と負い眼の哲学  山田登世子
ジョルジョ・アガンベン  新たな例外状態と「剥き出しの生」 鵜飼大介
ウルリッヒ・ベック  リスク社会と福島原発事故の希望  柴田悠  
ティム・インゴルド  「生きていること」から始める  柳澤田美
汪睴  「アジア想像」の時代へ  丸川哲史
レベッカ・ソルニット  ユートピアの可能生  菊池哲彦

 初めて見る名前が何人も。
 大澤「3・11後に思想家を読む」より。
 フロイトがしるすある夢から。
亡くなった子どもが夢の中で自分(父)を責める。目を覚ますと子どもの遺体にロウソクが倒れ一部焼けている。その夢の解釈、標準的な解釈は、夢には睡眠を引き伸ばそうという機能があり、火・煙・熱が父親の睡眠を妨げているのだが、夢を見ることで睡眠が少し長くなる。
 ラカンの解釈は逆。父は看病疲れと子を失った悲しみから逃避するために眠る。抑圧していた罪悪感が回帰し、父はその罪悪感から逃れるために現実に逃避した。彼が真実を知るためには、夢の中に留まることだった。
 大澤は、3・11以降の出来事はこの夢に似ている、と。

……われわれは、3・11の出来事に遭遇して、あるいはその出来事に巻き込まれて、何か強烈なショックを受けた。それは、われわれの精神を、あるいは社会を根柢から揺さぶるものだった、それは、まさしく夢のようなもの、悪魔と呼ぶべきものだった。……
 3・11以降、事故の原因について復興について、多くの言説が生み出されたが、それらは3・11の悪夢に匹敵する深さをもっていたか?  われわれのショックをすべて汲み尽くすにたる言説になっていたか?
……われわれに必要なのは、遮蔽幕となっている中途半端な解釈を突き破るような知的洞察力である。そのような洞察をもたらしうる叡智は、われわれの歴史的蓄積の中に、学問や思想の歴史の中に必ずあるはずだ。
……確かに、生きるか死ぬかのぎりぎりの境で、われわれは立ち止まって考えることはできないし、またそうすべきでもない。しかし、その瞬間のすぐ後に体験の意味を反省しようとするとき――(先の父親の例に即して言えば)眠りから覚めた直後に自分を戦慄させた夢の意味を解釈しようとするとき――、学問や思想や哲学が役に立つはずだ。

(平野)
●1月のブックフェア 『いま、考えよう、私たちの国・日本のこと』(平凡社
 東日本大震災が私たちに気付かせ、そして遺したもの、それは何だったのでしょうか? あの出来事は、私たちに日本人というものを、また日本というものを足元から考えさせられる契機になったのではないでしょうか。日本とは何か、私たちは何者か、そして美点は何か、欠点は何か。いまここで私たちの生活を立ち止まって見つめてみよう。日本の良さを探しだし、この美しい風土を発見し直そう。このフェアは平凡社が持っている書籍・ムックの中から選りすぐりの【日本】を多面的に俯瞰いたします。(平凡社の提案)
  【海】の規模で1社の本を50タイトル並べるフェアはなかなかできません。このたびの【平凡社】企画に乗ってしまいます。
【こんな本を並べます】
『日本の色』
『昔と今 比べてわかるニッポン美術入門』
天皇の日本史』
『日本の無思想』
白洲正子』……など。
@ 1F・「階段下」コーナーで、1/16(月)〜2/29(水)
 

荒蝦夷 から伊坂幸太郎の本、2.18予定。
『仙台ぐらし』 1300円+税
「仙台学」連載エッセイ+震災後のエッセイ+書き下ろし短篇小説。お楽しみに!
荒蝦夷の取引書店は全国で400店くらいだそうです。神戸近郊の方はぜひ【海】でお求めください。