週刊 奥の院 1.13

今週のもっと奥まで〜
■ 辻仁成 『まちがい』 集英社 1500円+税
「まちがい」とは男女関係の「まちがい」。 
 すべては欲と打算だった。芹沢秋声は経営するエステティックサロンが倒産寸前。学生時代の友人で資産家・榊原大悟に援助を頼む。彼は条件を出す。妻と円満に別れたい。「妻と関係を持ってほしい」。その日すぐ引き合わされる。

「あの人、あなたにご迷惑かけていませんか?」
「どういう意味ですか?」
「いえ、とくに、意味なんて。ただ強引にここに呼び出されたので、ちょっと気になったの」
 榊原冬のしっとりと艶やかな瞳を見つめながら、やりにくい、見抜かれている、こんなこと出来るわけがない、と秋声は観念して暗くなっていた。失敗したら、融資はどうなるのか。
(翌日4千万円が振り込まれる。後もどりはできない。ふたりで食事をして次の約束をしようとする。冬が「運命を感じる」と告白。秋声はダンスに誘う。彼の得意なタンゴ)
 秋声はじっとまっすぐに冬の目を見つめた。無言で、さあ、と誘った。視線がつながったと思った瞬間、新しい曲がはじまる。秋声が冬の腕をぐいと引っ張り上げると、冬の肉体はそのまま秋声の腕の中へ引き込まれてしまった。
「踊ろうと思わないで。ぼくに抱かれていると思ってください」
(冬の誕生日を軽井沢で過ごす。榊原は愛人と旅行)
「あなたはきっと榊原に借りがあるから私なんかと付きあってくださっているのだと思います」
「あなたが僕に運命を感じてくれたからです。運命の結末を覗いてみたいと思った」
「生きることって何かしらね、子どもの頃からずっとそのことばかり考えていました。一瞬でもいいから、心から幸せって思える瞬間を味わってみたい。……女として」
「あなたは美しい……美しいうえに悲しい」
「どこかの惑星に連れて行ってください。誰もいない、何も無い、ここから何億光年も遠い星のベッドの上へと。私を今夜抱きしめてくれませんか、遥か彼方の惑星で」
 冬は秋声をまっすぐに見つめた。その目は充血し、かすかにまどろんでいた。……

 ほんとうの恋に落ちてしまったふたり。試練はここから始まるのだよ。
 私の頭の中で、ヒロインはミホリン、榊原は著者、秋声はわてで物語映像化。
 カバー、店頭で見て何かわからなかったのですが、こうして見ると、はい。
(平野)