週刊 奥の院 1.2

■ シリーズ 日本語の醍醐味

(1) 『坂口安吾 アンゴウ』 
(2) 『石川桂郎 剃刀日記』 
烏有書林 各2200円+税
 本シリーズは、
「“ハードカバーでゆったり、じっくり味わって読みたい日本文学”をコンセプトに、密度の濃い文章、描写力で読ませる作品、言葉自体の力を感じさせる作品を集成」する。
http://uyushorin.com/ 

 書肆主人の「ともすれば烏有となる著作を掬い上げる出版社」 という志そのもの。
(1) 坂口安吾の初期短篇集。解説、七北数人。

……代表作しか知らないという幸福な(これから楽しめる!)読者は、まず本書の「アンゴウ」と「無毛談」とを読んでみてほしい。同じ一九四八年五月に発表された二作で、共にあっと言わせるどんでん返しが効果的に仕組まれている。読後あたたかな火が胸にともる。安吾がいかに小説づくりが巧みで、しかも心やさしい作家だったかがよくわかるだろう。文章も読みやすい。人をいとしむ気持ちが端々ににじみ出て、切なくなる。

「アンゴウ」 暗号。親友が手放した蔵書に挟まっていた数字の暗号。自分の妻とのラブレターかと疑うが……。
「無毛談」 ハゲ頭の話なのだが……、別の「毛」と想像したあなた! うふふ、です。
(2) 解説者同じ。  
石川桂郎(けいろう・1909〜75)は東京生まれ。理髪店を営むかたわら、俳句は杉田久女門下、小説は横光利一に師事。39年同人誌『鶴』に発表した小説「蝶」(本書所収)で永井龍男に認められる。『剃刀日記』は42年刊行。仕事のなかで着想を得た短篇の数々。戦後『馬酔木』『俳句』『俳句研究』編集長歴任。
「蝶」 元お殿様のお屋敷に出張して、婚礼間近のお姫様お顔剃り。その最中、闖入してきた蝶。
(平野)