週刊 奥の院 12.25

■ 瀬戸内寂聴 『奇縁まんだら 終り』 画・横尾忠則(装幀も) 日本経済新聞出版社 1905円+税 
 連載の話が来たのが2006年秋、寂聴84歳の時。
 作家、芸術家、政治家、芸能人、僧侶、死刑囚……、出逢った人々の思い出。

……八十四年も生きてきた私は、生きるとは出逢いであると信じるようになっていた。人との出逢い、風景との出逢い、音楽と、美術品と、こまごましたアクセサリーたちと、さまざまな動物たちと……どの出逢いも、私の生きる栄養となり、心身を育んでくれた。中でも人との出逢いこそが私の生の証しであり、何にも勝る誇りであった。小説家を志してその想いを貫いて生きたから、最も貴重な出逢いは、同じ道を生きた人たちであった。たった一度の瞬間的な出逢いでも、その人の生涯をくつがえすこともある。……

 吉村昭津村節子夫妻とのつながりは同人誌から。丹羽文雄主宰「文学者」。寂聴はその頃少女小説を書いていて、北原節子の作品と名前を意識していた。吉村は「純文学の極北のような小説」。

……吉村さんは自分の病気を一切死ぬまで家族以外には秘し通せと命じたそうだ。そのため節子さんがどんなに苦労したか思いやられる。
 節子さんは自分の仕事を断り、看病に専念しようとしたが吉村さんは許さなかった。
「きみは小説家だから」
 といって、文芸誌の短篇を引き受けさせた。
 それに熱中している最中、吉村さんはあらゆる点滴の管を自ら引き抜き、首の静脈に埋めこまれたカテーテルポートを引き抜き、逝去した。
 節子さんはその後、順幀したり、吉村さんと住んだ家を想い出がありすぎると壊したりしながら、夫の死を今も切なく弔いつづけている。

 昨年11月背骨圧迫骨折で、60年の作家生活で初めて休筆。「奇縁〜」だけは6回休んだだけで復帰した。

(平野)
【海】はコミックをあんまり売っていないのですが、個人的好みで紹介。  
■ 作画 谷口ジロー  原作 稲見一良
『猟犬探偵(1)セント・メリーのリボン』 集英社
 1000円+税
 稲見一良のハードボイルド、猟犬探し専門の探偵が主人公。
 慎ましい生活、謝礼は自分が決めた額だけ、探す犬の種類限定。
 金では動かない、暴力にはひるまない、女に惑わされず、人情に脆い。猟と犬を愛し、バーボンを好む。
 私、軟弱者ですが、こういう話はいいです。
 でも、卵は……、やっぱり半熟がいいです。固ゆではダメです。