週刊 奥の院 12.10

◇ 今週のもっと奥まで〜
■ 村山由佳 『放蕩記』 集英社 1600円+税
 すっかり“無頼”になってしまった。本書は、母・家族との関係を描いた自伝的小説。
(帯) 〈母〉という名の恐怖。〈躾〉という名の呪縛。 どうして私は、母を愛せないのだろう。 家庭の〈絶対君主〉母、外では別の顔を演じる。厳しい躾、特に性的なことには異常なほど潔癖。
 主人公・夏帆は主婦になってから小説家に。夫はヒモ的存在になる。
 引用部分は夏帆の大学時代の××。恋人(先輩)Aが就職、夏帆は同級生に告白され揺れる。Aは社員寮に彼女を連れて帰る。

……駅前から寂しい夜道を歩き、その晩はない書で社員寮に泊めてもらった。

 研修中の新人社員寮に女が泊まりこむなど褒められたことではない。おまけに怪しげな声が隣に漏れたりすれば、あとから何を言われるかわからない。それでも、Aは躊躇しなかったし、夏帆も拒まなかった。むしろ、これまでになく情熱的な一夜だったと言っていい。
 ありがちなことだが、くすぶりかけた恋愛の炎を再び燃えあがらせるためには、障害という名の薪をくべてやるのがいちばん効く。とくに、夏帆のことを、いつでも必ず自分についてくるものと思いこんで安心しきっていたAにとって、自分以外の男の出現は薪どころか火薬並みの威力を持っていたらしい。
 薄い壁を気にして県名に声を押し殺す夏帆を、Aはなんども組み敷いた。物音や進藤を考えればあまり激しいことはできなかったが、そのぶん、長々と時間をかけ、夏帆の軀のありとあらゆる部分を執拗に責めた。
 くり返し襲ってくる波に、完全にさらわれてしまえば声が出る。堪えすぎて朦朧と濁っていく意識の中で、夏帆は、愛されているというより、まるで復讐されているように感じた。……

(平野)