週刊 奥の院 12.7

■ 酒井隆史 『通天閣 新・日本資本主義発達史』 青土社  3600円+税
 ぶっとい! 全740ページ。 
 著者、1965年生まれ、大阪府大准教授、社会思想・社会学
 10年前に府大に。四天王寺の南門前に住む。

……JR天王子駅をおりたときから、この町はこれまでみたどの町ともちがっていた。どの都市も各々固有の顔をもっているといった次元のことではない。この町は、あきらかに特別なのだ。すこし歩くだけで無数の表情をみせてくれた。そしてそのそれぞれがなにか解きがたい秘密をかかえているようにみえた。……

 本書に登場する人物、有名人ばかりではない。怪しげな投機家、人道主義者の極道、悪評だらけの企業家、博徒アナキスト、私娼……。彼らとともに通天閣を中心にして大阪を見つめる。

……ただ、この一〇年間で、秘密とそこから生まれる魅力は次々と失われていった。謎解きがわずかなりともすすんだからというわけではない。このふところ深い町、したがってひとをただ一つの夢想に巻き込んでいく力――資本主義と呼ばれることもある――に免疫力のあった町にすら、おなじ眠りを眠らない者、おなじ夢想を生きない者、そのただ一つの夢にそぐわない場を嫌悪する気風にさらされはじめたというところだろうか。……

 映画館、大衆演劇、歌謡劇場、立ち飲み……、賑やかで騒がしくて、繁華街とか下町気分というよりもっとゴチャゴチャした、臭い(香りではない)のある街。それがだんだんなくなってくる。阿倍野界隈にも高層商業ビルで、つまらん。
第1章  ジャンジャン横丁
第2章  パサージュ論王将――阪田三吉と「デープサウス」の誕生
第3章  わが町――上町台地ノスタルジア
第4章  無政府的新世界
補論1  外骨の白眼
補論2  蜂の巣、蜘蛛の巣、六道の辻――クリアランス小史、あるいは逃亡の地図(3)
第5章 飛田残月

 阪田三吉を歌った「王将」(3番) 
明日は東京に 出て行くからは なにがなんでも 勝たねばならぬ 空に灯がつく 通天閣に おれの闘志が また燃える 作詞:西條八十
(平野)