週刊 奥の院 12.2

◇今週のもっと奥まで〜
■ 山田詠美 『ジェントルマン』 講談社 1400円+税
 勉強もスポーツもでき、美貌と優しさを備え、周囲の尊敬を集めていたというSを、Yは冷静に見つめていた。高校時代、華道部の部屋でYはSの残酷な本性を目撃してしまう。その罪を知るただひとりの存在として、Yを愛し守ると決意。
(帯) ぼくの愛したその男、罪人(つみびと)につき。

 Sの残酷な本性とは、女性への仕打ち。社会人(Sは銀行員、Yは生け花の仕事)になっても続いている。一方で、妹に異常なほどの愛情を持ち、ついにはその恋人を殺害。Yは自分の手で彼の罪を罰することに……。

 服を着たまま横たわるヨーコに裸のジョンがしがみ付いている写真のように、Yは眠っているSにしがみ付く。ヨーコと違ってSの下半身は剥き出し。Yは、初めてSの本性を知った時に彼からポケットに入れられた花鋏を手にしている。ふたりの共犯の証拠でもある。

……ぼくは断ち切るという行為で、きみと固く固く結び付く。このいとおしい逆説。ぼくは、きみが寝入ってしまうのを見届けて、その性器に刃を当てた。そして、美しい花を付けた枝にするように、思いを込めて、ひと息に剪定した。続いては、無駄に繁る、いくつかの動脈を。生け花をやっていたのは、この日のためだったのか、と腑に落ちた。……

(平野)11.26「朝日新聞」から。  
○ J堂勤務から日本最小の古本屋さんになった人。 

○ 『ほんまに』執筆者、竹十主人。

【海】HP更新しています。 http://www.kaibundo.co.jp/index.html