週刊 奥の院 11.25

◇ 今週のもっと奥まで〜
■ 『愛するキモチ ハーレクイン・チャリティ短編集』 ハーレクイン 333円+税
 女性に支えられてきたハーレクイン社が「この困難にできること」を、とチャリティ企画。本書の収益全額を被災地の女性・妊産婦に寄付。それぞれができること、パチパチ!
 エミリー・リチャーズ『天使たちのクリスマス』より。
 主人公クロエは児童施設の院長。彼女自身、幼い頃に両親を亡くしている。院の改装をする建設会社の社長イーガンが彼女に愛を告白。彼女も彼に惹かれているのだが……。
 彼女が彼にチェスセットをプレゼント。お互いが駒に託して愛をささやき合う。不安を抱えつつ、あま〜い。

「見て。わたしに似てると思わない?」彼女は黒のクイーンを手渡した。 
 確かにクロエに似ている。ほっそりした腰と豊かな胸は、いかにも女らしい。そして長い髪、誇らしげな姿勢、しとやかさ、厳しさ、切望するような表情、すべてがクロエそのものだった。
「白のキングには、ちょっぴりあなたの面影があるわ」彼女はキングを持ち上げて見せた。
「もっとも、あなたほどすてきじゃないけれど」 
 クロエは黒のクイーンをイーガンの手から取ると、黒のキングの隣に並べた。
「でも、問題があるのよね。黒のクイーンは白のキングと一緒になりたいの。ただ二人は引き離されていて、お互いに近づけないでいるのよ」
「何が二人を引き離しているんだ?」
「二人が恐れているからかもしれない」
「二人とも?」
「いいえ、違うわね。クイーンだけ」
「彼女はなにを恐れているんだい?」
「たぶん、彼のことが気になりすぎるんじゃないかしら。そんな気持ち初めてなのよ」
 ……
 イーガンはチェス盤に手をのばしながら、もう一方の手を彼女のウエストに回した。
「じゃあ、キングはなにも恐れる必要はないってことを彼女に教えてやらなきゃいけないね」そう言いながらクイーンを持ち上げる。「こうして魔法の絨毯に乗るんだ。どうなるか見てみよう」
 クロエはイーガンにもたれた。瞼が自然に閉じる。彼は温かく、その肌はチェスの駒のようになめらかで、硬い。「イーガン……」彼女はそっとつぶやいた。
 その声にこめられた気持ちを読み取り、イーガンは背筋に戦慄が走るのを覚えた。「白のキングは愛する女性のために黒と闘う。ナイトやずる賢いビショップに襲われ、歩兵に囲まれるが、つかまりはしない」
「それじゃあ、二人は結ばれないわ」
「いいや。一縷の望みもなくなったように思われたとき、クイーンは道が開けていたことに気づくんだ。白のキングの絨毯に飛び乗り、二人は誰にもなにものにもじゃまされないところへ飛び去っていく。そこで白のキングは美しいクイーンに語りつづける。愛している、なにも恐れることはないってね」
……
「もう一つプレゼントがあるの」クロエはブラウスの一番上のボタンに指をかけてささやいた。……

 ええとこですが、こっからは、紙版で。
(平野)