週刊 奥の院 11.10
■ 石橋毅史 『「本屋」は死なない』 新潮社 1700円+税
業界本なのに紹介が遅くなりました。入荷して即日品切れになってしまいました。【海】には一桁の下のほ〜う〜の数しか入りません。9日ようやく追加分入荷。
目次
序 章 彼女を駆り立てたものは何か?
第1章 抗う女
第2章 論じる男
第3章 読む女
第4章 外れた男
第5章 星となる男
第6章 与える男
第7章 さまよう男
第8章 問題の男
終 章 彼女が手渡そうとしているものは何か?
大書店も小さな本屋もたいへんです。【海】のような古いだけの本屋はほんまにえらいこってす。
著者は1970年生まれ、出版社勤務から出版業界専門紙「新文化」で記者、編集長を務めた。09年退社してフリーに。
(帯)出版流通システムの現況や、取り巻く環境の厳しさに抗うように、「意思ある本屋」であり続けようとする書店員・書店主たち。その姿を追いながら、“本を手渡す職業”の存在意義とは何かを根源的に問い直す。「本」と「本屋」の今と未来を探る異色のルポ。
「抗う女」 大手書店を辞めて、独立、5坪の本屋を開業したHさん。
「彼女を駆り立てたものは何か?」
辞める時は開業を想像していなかった。自分が経営者をやるのは不可能。出版社に勤めた。
辞めた理由のひとつは、取次会社の在庫・販売データ共有システム。委託制度が金融になってしまっているのが現状だ。送品・返品のムダという出版流通の課題を改善する施策はずっと行なわれてきた。出版業界もスーパーやコンビニのようにPOSシステムで各店の売行き・在庫のデータを共有できるようになった。
Hさんは、品揃え・棚作り、それにまだあまり知られていないがこれから売れるかもしれない本を仕掛けることが好き。これは時間がかかること。試行錯誤しながらじっくり育てたい。Hさんがそうしているうちにデータは広がってしまう。自分が独占したいとか注目されたいという訳ではない。育てている本・ジャンルが、 「あっという間に広がることで、土台のしっかりした、強いジャンルになる前に消費し尽されちゃう」。
モチベーションを失った。
本屋をやろうと思ったのは、ある本屋の店長との会話から。彼女の意見を聞いたうえで、
「個人事業の本屋、やればいいじゃない?」と。
その瞬間、できるかも、と素直に思えたんですよ。
選んだ場所などの条件。商店街、近所にいい古本屋がある、郵便局が近い(通販を考えて)、スタッフなし、古書・新刊・雑貨など組み合わせる……。
店名「ひぐらし文庫」。その日暮らし。
一冊一冊丁寧に向き合い、ひとりひとりの客に手渡す本屋。シンプルで、それゆえに継続の難しそうな理想が、本人やブログの言葉の端々に漂う。彼女は、「夢や理想で飯は食えない」という一般論と向き合わざるを得ない状況に自らを追い込んだ。
著者のエール。
あなたはすごく大事なことをしている、これから先ももっと必要になる人だ……。
「ひぐらし文庫」さんは6月の「女子の古本屋」に参加してくださった。こちら。 http://www.higurasibooks.com/
【海】は取次会社のPOSシステムを導入していません。手打ちのレジでピコピコやっています。時代遅れというか、遺跡みたいなものです。もともと海事書分野は流通に乗っていないものを多く扱ってきています。直仕入が多いのです。
■ 『ほんまに』 第14号 レギュラー『ほんまに』の華3名。
○ 映画屋さん日乗 内海智香子
スタジオジブリはここ何年も、その持てる技術とお金と環境と人材と良心を無駄使いし続けていると思うのは私だけだろうか……。
○ トンカ書店漂流記 頓花恵
蔵書整理のためお家に呼ばれる。床が見えない本だらけ。強烈。
目の前の本の海を眺めながらお家の人との長い沈黙。色んなお宅の本棚を見るたびに新しく思うことがあります。それだけで面白くて仕方がないこともあり、切なくて仕方がないことも多いです。
○ 子どもたちのための絵本えらび 田中智美 グリム童話『ねむりひめ』 ホフマン え せたていじ やく 福音館書店
私もじっくり読むのは久しぶり。でもやっぱり、なんて美しい本! 研ぎ澄まされた流れるような文章、その流れを止めることなく、お話の世界をいっそう引き立てるように、落ち着いた色彩で描かれたホフマンの絵は、繊細で余白の取り方までも美しい。読み返すたびに、100年という時の流れを伝えるために細やかに考えられている描き方に感心してしまいます。
9日、東北学院大学生協さんから注文をいただきました。『ほんまに』ついに仙台進出。
(平野)