週刊 奥の院 10.10

先月ずっこけてしまったからではないのですが、ちくま文庫」新刊

■ 石田千 『屋上げり』 失礼、まちがい 『屋上がえり』 780円+税
「屋上」をテーマにエッセイが次々書ける。
 
石田さんは、屋上から眺め、屋上を観察することに加えて、屋上で遊んで見せる。(解説 大竹聡)……

 「酒とつまみ」の大竹さんが解説。石田さんも呑兵衛なのか?



■ 長嶋有 『いろんな気持ちが本当の気持ち』 660円+税
 表題のエッセイは角田光代さんの『みどりの月』解説。 

 角田さんの作品の主人公はイライラしていることが多い。
 家族や同居人の振舞いや、恋人の態度に苛立っている。その様子を丹念に観察して、きちんと描写するから、イライラ加減は濃密に伝わり、読みながらときどき顔をあげてしまうこともある。たまに「私は笑った」とあると、ほっとしてそこを読み返す。
 どんどん読みすすめていくと最後に必ずイライラしてはいない、別のなにかを手渡される。イライラから解放された、やったー! というカタルシスとは少し違う。「前向きな決意」とか「幸福の予感」なんて分かりやすいものでもなくて、それは「うつろな気持ち」とでもいううべきものだ。うつろでも、ささやかな心地よさをともなっている。

 しまおまほさんの解説がおかしい。



■ 森茉莉 『魔利のひとりごと』 700円+税
 天下のお嬢さまである。世にお嬢さまはゴマンといるでしょうが、“お嬢さま度”の次元がちゃいます。ご先祖がどうとか裕福とかとは、ちゃう!

……鷗外から受けとった計り知れない詩的情操や知識、美に対する感応度は元より母親から受け継いだものも大きい。(解説 小島千加子) 
 母は江戸の町衆の“粋”を備えた人だった。茉莉は町方のお内儀さんのキップの良さを身につけた。
「石鹸(サヴォン)・固型香水(バス・ザルツ)・花の香い(におい)」より。

(石鹸にサヴォンとルビをふる理由)……私の育った明治大正の時代には日常使うものに仏蘭西語が入っていた。シャボンはサヴォンのなまりで、車夫も焼芋屋の小僧も仏蘭西語を喋っていた。米国とロシアくらいしか外国を知らず、フランスという国のあることを知らないお女郎も、石鹸は仏蘭西語でいっていた。(おまいさん、しゃぼん貸しとくれよ)といった具合である。幼い時に使った懐かしい言葉であるし、シャボンと発音する時、小さな体の上を流れた温い湯の記憶が蘇る。


 1篇に1枚佐野洋子さんのエッチング
■ 大塚ひかり 『愛とまぐはひの古事記 (780円+税)は後日。