週刊 奥の院 9.28

■ 竹内幸絵 『近代広告の誕生 ポスターがニューメディアだった頃』 青土社 3400円+税
 カバージャケットは、写真の部分だけ。1922年壽屋の「赤玉ポートワイン」の広告写真。ヌードポスターは、当時大センセーション(胸は写っていない)。モデルは女優・松島栄美子。この後、彼女は親から勘当されたそう。
 日本人がそれまで慣れ親しんでいたポスターは、明治期から続く「美人がポスター」だった。日本人が衝撃を受けたヨーロッパのポスターとの成り立ちは、決定的に異なっている。
 日本の広告の始まりは江戸時代の錦絵。背景や役者の持ち物にさりげなくスポンサー名が記載された。大正時代に入ってきたヨーロッパの広告写真には強いメッセージが込められていた。
 その「強いメッセージ性」は、国家によって実用化される。すでに“戦争”に利用されていた。最先端のメディアがプロパガンダとなる。
 著者は神戸大学大学院修了、大阪市大・関学大講師、サントリーホールディングス在籍。歴史社会学・広告史・デザイン史が専門。そもそもの研究は、東京オリンピックのポスター「スタート」(1962年、アートディレクター・亀倉雄策)の成立史を探るものだった。そのポスターの元は、幻の東京オリンピック(1940年予定だったが返上)招致をめぐる宣伝のため、「日本工房」という会社が広報用に作った『NIPPON』第7号の表紙――名取洋之助撮影の短距離走者スタートの一瞬――の写真。亀倉はその完成直後に日本工房に入社、ディレクターとして活躍した。
 目次
はじめに ポスターがニューメディアだった  広告丸の船出
第1部 ポスターは淡白に鑑賞する芸術ではない。メディアだ。
1 女優や芸者の死せる肖像  「美人画ポスター」批判
2 「商業美術」と「単化」デザイン  美人がポスターから脱皮せよ
第2部 転機:1930年 雑誌『広告界』について
3 「レイアウト」って何だ? 
4 文字は広告の主役だ  広告という媒体への目覚めと「文字」
5 広告に写真を使え!  ヨーロッパ前衛と広告
第3部 広告近代化と総力戦
6 迷走する商業広告
7 総力戦と広告の現代化
終章
(平野) 
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