週刊 奥の院 9.17
■ 『寺山修司全歌集』 講談社学術文庫 1100円+税
底本は風土社版と沖積舎版、解説は塚本邦雄。
「文芸文庫」ではなく「学術文庫」。解説、穂村弘。
塚本をして、「天が時によっては法外な大盤振る舞いをする」と。俳句、短歌、詩、文芸の世界だけではなく演劇でも活躍した。
有名な歌、
「マッチ擦るつかのまの海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」
は、『空には本 祖国喪失』(1958年)所収。
同書「僕のノオト」より。
(戦争が終ったときに10歳だった者のひとりである)僕たちが自分の周囲に何か新しいものを求めようとしたとしても一体何が僕たちに残されていただろうか。
見わたすかぎり、そこここには「あまりに多くのものが死に絶えて」しまっていて、僕らの友人たちは手あたりしだいに拾っては、これではない、これは僕のもとめていたものではない、と芽ぐみはじめた森のなかを猟りあっていた。
しかし新しいものがありすぎる以上、捨てられた瓦石がありすぎる以上、僕もまた「今少しばかり残っているものを」粗末にすることができなかった。のびすぎた僕の身長がシャツのなかへかくれたがるように、若さが僕に様式という枷を必要とした。
定型詩はこうして僕のなかのドアをノックしたのである。
縄目なしには自由の恩恵はわかりがたいように、定型という枷が僕に言語の自由をもたらした。僕が俳句のなかに十代の日日の大半を賭けたことは、今かえりみてなつかしい微笑のように思われる。
紹介する時期がずれて
■ 松井牧歌 『寺山修司の「牧羊神」時代 青春俳句の日々』 朝日新聞出版 1900円+税
「牧羊神」は1954(昭和29)年寺山が青森高校時代、全国の高校生に呼びかけて創刊した俳句雑誌。57年まで12号刊行。
著者は大阪府立富田林高校時代、受験雑誌に俳句を投稿、寺山と同時入選で掲載され、文通が始まる。「牧羊神」にも参加。
入選の句。
「冬凪や父の墓標はわが高さ」 寺山
「縄跳びの子らの貧富に霜ひかる」 松井
松井は太宰に傾倒していて、太宰の本名「津島修司」と、「青森、寺山修司」を重ね合わせ、ひそかに親愛感を覚えた。
(平野)
本日より、岩田健三郎原画展 2F ギャラリースペース 19日(月)まで開催。
尚、岩田さんは本日14:30頃会場に到着予定。18日19日は終日会場に。