週刊 奥の院 9.16

◇今週のもっと奥まで〜
■ 大石静 『セカンドバージン』 幻冬舎文庫 533円+税
 昨年テレビドラマがヒット。NHKなのに官能シーンで高視聴率。私はチャンネル権ないので見ていません。鈴木京香ら主要キャストそのままで映画化。9.23ロードショー。小説版、ざっと見て激しいシーンはございません。
映画予告編。http://www.youtube.com/watch?v=jlb6Sid4BbA
 仕事一筋の出版社重役・るい(47歳、離婚歴あり、長男は成人)、17歳年下のキャリア官僚・鈴木行(こう)の著書を出版。彼は時の人に。ふたりは年齢・立場を越えて愛し合うが、運命は……。

……
「なぜ長い間、連絡が取れなかったんでしょうか」
「もうあなたには、Yという担当者がいますから」
「それだけでしょうか」
「私が出て行くと、Yがやりにくくなりますもの」
……
「ボクにプレゼントさせてください」
「欲しいものはありますけど……鈴木さんにプレゼントしていただけるようなものじゃありません」
「それ、愛ですか? 恋ですか?」
「あのね、愛とか恋とか、そういう曖昧な感情は信じられないの、もう」
……
「でもしたいんです、プレゼント。僕、しつこいんです。思ったことはやりとげないと気がすまないっていうか……」
「私の欲しいもの……それはね……死のような快楽」
「……」
「だからあなたには無理だと言ったでしょう?」
 行が動きを止めた。切れ長の目もピクリともせず見開かれたままだ。予想外のことが起きると弱いんだな、とるいは思った。どうだ、参ったかと心の中で言った時、いきなり類の頬が行の両手で包まれ、行の唇がるいの唇に重なった。
 予想していなかったので身動きが出来ず、るいは彼の唇をしっかりと受け止めてしまった。唇と同時に行のとがった鼻先がるいの頬に押し当てられている。
 咄嗟に拒否できなかったことが悔まれるが、動揺は見せまい。
……(後日、るいは行を呼び出す)
「出て来てくれてありがとう」
「どうしたんですか?」
「キスして。そして終わりにして」
「終わりにするって、どういうこと?」
「私ね……夫と離婚した時、もう二度と男の人を頼りにしないと決めたの。愛とか恋とか、そういうものを私の人生から排除したの」
……
「イヤだ、お別れなんて。出会ったばっかりじゃないか」
「もう一つ、私の秘密を話すわ……夫と別れてから二十年、私、男の人を知らないの」
 行の表情が変わった。
「ファーストバージンを失うのは、誰にも普通に訪れることよ。でもセカンドバージンに陥った女が、そこを突破するのは簡単じゃないの。十七歳も年下のあなたを相手に、そんな冒険はしたくないの……」
(運命なのか、お話なのか、お話です。翌日ふたりは仕事でシンガポール、ホテルで偶然……。るいは行の部屋のチャイムを押すが、反応がない)
 縁があると思ったのは錯覚だったのか。あんなに好きだと言ったくせに、いま、自分に答えないなんて、何て間抜けな男なんだろう。それを確かめるために、この部屋のチャイムを押したなんて、私も何てバカなんだろう。
 諦めて踝(きびす)を返したるいは、息を飲んで立ち竦んだ。
 ふり返ったるいのまえに、行が立っていたからだ。
 ふたりは次の瞬間、どちらともなく一歩踏み出し抱き合った。
 長かった今日一日と、すれ違い続けた心をやっと手に入れたように、ふたりは互いに力一杯抱きしめ合った。
……
(平野)全国書店新聞 9.15号 「うみふみ書店日記」更新。
http://www.shoten.co.jp/nisho/bookstore/shinbun/view.asp?PageViewNo=8620