週刊 奥の院 8.19

しばらく自粛していました「もっと奥まで〜」ですが、読者の強く激しい要望(?)を受け、このたび復活いたします。といっても、ひとりだけですけど。
ゆうさん、あなたのために。
今週のもっと奥まで〜
■ 林保治 『エッチな古典 楽しく読めて面白い説話文学』 新人物文庫 714円+税
 著者は早稲田大学名誉教授。専攻は説話文学、仏教文学、能・狂言。世の「古典離れ」に挑戦するために編まれた本。『源氏物語』など有名な古典ではなく、一般になじみの薄い「説話」と呼ばれる作品を主な材料にし、しかも神話・伝説は外し、世間ばなしや日常の意外な事件、普通の男女の織り成す事件を取り上げる。「昔も今も変わらない丸裸の人間、スッピンの日本人の本然の姿や人間性を振り返るよすがにしたい」。




 仏道一筋の美貌の尼に、ある僧が一目惚れ。寝ても覚めても尼のことが心を去らぬどころか、思いは募るばかり。意を決して尼の家を訪ねる。この僧、体つきが華奢だったので、尼のふりをして使用人として入り込もうと考えた。美貌の尼さん、ニセ尼のものの言いようが落ち着いて穏やかなのが気に入り、雇うことにする。働き者で力仕事もこなすので、重宝と、家内のこといっさいを任せられる。
 次の年の冬の頃、「夜は寒いでしょう。遠慮せずに私の裾の方に入っておやすみ」などと言われるようになり、うれしくてしかたがないが、「まあ待て」と抑えがたい欲情をなだめ我慢の時。
 正月、尼は七日間念仏のため持仏堂にこもる。

 七日間の精進の勤めを終えて、八日目の朝に持仏堂から出てきた尼は、ずいぶんくたびれている様子であった。案の定、尼はその夜、疲れ果てて正体もなく眠りこけてしまった。僧は今こそチャンス到来と思った。
「数えてみると、今年で三年になる。何のためにこうしてお仕えしてきたのか。それもこれもこのためだ。さあ、どうともなれ。今こそ取り付いてけりをつけよう」
と、寝入っている尼の股を大急ぎで押し開いて、間に挟まった。そして、このときのために満を持していた大きな逸物を一気にズンと……。

 尼は怯えたように取り乱し、腰を引いて、一目散に持仏堂に駆け込む。
「これはえらいことになる」
 僧は持仏堂の前で小さくなっていた。中では尼が何度も鉦を鳴らし、仏にものを言いかけている。尼が出で来る。叱責を覚悟していると、

……尼は意外にも機嫌のよい声で、「どこにいるの」と呼びかけている。うれしくなって「ここにおります」と僧が答えると、さっと股を広げて僧の上に覆いかぶさってきた。僧はまたまた意外に思いながら、そのまま押し倒し、年来の宿願成就とばかりにじっくりと……。
「持仏堂に駆け込まれたのはどうしてですか」
「それはねえ、独り占めするのは申し訳なくて、仏様にもお裾分けしようと、鉦を鳴らしに行ったのですわ」
 こうしてその後、二人は暇なく甘美に求め合い、めでたく夫婦になったという。                       『古今著聞集』

(平野)