週刊 奥の院 8.5

■ 半藤一利 加藤陽子 『昭和史裁判』 文藝春秋 1524円+税
  
 裁判の被告は昭和史そのもの。歴史のキーパーソンたちについて、半藤さんが検察側、加藤さんが弁護側になって議論。
 

半藤 ……太平洋戦争への道のりを考えれば、軍人だけではなくて政治家や外交官も、実際問題として相当責められて然るべきであるとの思いがじつは強いのです。ですから政治家や外交官をとりあげ昭和史法廷を開くとなれば、あえて検事役を買って出ざるを得ない。断固として……

第1章 広田弘毅  軍人を志すも、外交官となり総理大臣に。悲劇の文官をいま、死刑台から引き戻すことができるか
第2章 近衛文麿  戦争の神様に謀られた青年宰相の栄光と悲惨  国民的人気者の成したこと成さなかったこと
第3章 松岡洋右  「救国の英雄」から「売国の外相」への汚辱  いま、その世界観と外交手腕とを精査する
第4章 木戸幸一  天皇の決定すらも左右できた側近中の側近  その責任の重さをあらためて問う
第5章 昭和天皇  皇統を護るために担った「大元帥」と「天皇」の重責  その平和への希求はなぜ潰えたのか 

 最後は半藤さんが弁護側に。
 

加藤 ……日中戦争天皇が戦術戦略的なレベルにまで降りていって指揮をした戦争だったのだなあ、という印象があります。というのが、私、検察側の冒頭陳述です。情状酌量としては、初陣であったということでしょうか。
半藤 ……天皇の中国に対する最初のころの基本的な考え方は、残念ながら「中国一撃論」でした。……日中戦争そのものには、当初あまり強く反対していないのです。……一撃でガツンで戦闘は終る。それで一撃、さらに一撃、さらに……このあたりはどうも弁護しづらいところです。

 加藤さんが言う。歴史学とは、歴史を動かした当事者がどのようなことを考え、どのような気持ちでそのような行動をとったのかという、当事者の側に立った主観的な情報を綺麗に取り出す作業。当事者たちの失敗の情報こそが、将来起こりうる問題に人間が立ち向かえるためのワクチンになる。
(平野)