週刊 奥の院 7.31

■ 町田康 『残響  中原中也の詩によせる言葉  
machidakou sings nakaharachuya』 NHK出版 

1400円+税
 何年か前、中也の生誕記念だかのTV番組で案内役をしてはった。本書はNHKのウェブマガジン連載と番組「知るを楽しむ」を再編集。中也の詩に町田さんが文章を添える。宣伝文句は“「ダダの中也」と「パンクの町田」の饗宴”。
 有名な「汚れちまった悲しみ……」には、
 

 ソースが垂れる。出汁が飛び散る。まだ火がついているタバコの灰を落とす。無理矢理に鞄に押し込んで折れ曲がる。(略)
 俺がもっとも大事にしていたものの身の上にそんなことが連続して起こってしまって、俺がもっとも大事にしていたものはもはや見る影もない。その見る影もなくなった、俺がもっとも大事にしていたものに、冷たく正確な死が、無数の銀の直線の形をとって垂直に降る。時間が垂直に突き刺さってくる感じ。
 俺のもっとも大事にしていたもの、ってなんだよって、ってか? ははは、それは、比喩的に言えば、もう俺と一体化して皮膚のようになってしまった衣服のようなものだよ。

 装幀は有山達也さん。「暮しの手帖」「ku:nel」のアートディレクター。青を基調にしたさわやかなもの。私、中也というと濃い茶系のイメージです。

■ 見沢知廉獄中作品集  背徳の方程式 MとSの磁力』 
アルファベータ 
1900円+税
 見沢さんは1959年生まれ。新左翼運動から新右翼に。スパイ粛清事件で懲役刑。12年服役。94年、獄中で執筆した『天皇ごっこ』で注目された。2005年自死。今年は7回忌。本書は遺品から発見された未発表原稿。
『背徳の方程式――MとSの磁力』
『人形――暗さの完成』
『七十八年の神話』
『獄中十二年』
解説なぜ「見沢知廉」なのか  高木尋士

 大浦信行監督、映画「天皇ごっこ――見沢知廉・たった一人の革命」、今秋公開予定。
 解説の高木さんは劇作家、07年『天皇ごっこ』を舞台化。以後毎年見沢作品を舞台化している。
 劇団員が、なぜ見沢をやるのか? と質問する。うまく答えることができない。好きではない。むしろ嫌いなタイプだ。興味があるということもない。彼の文学に傾倒していることもない。ではなぜ?
「その問いに答えるために、毎年、答えのパーツを舞台に積み上げてきた」
 関係者に取材するうち、母上に一番多く取材することになり、遺品の整理。
(平野)