週刊 奥の院 7.22

 7月の集英社文庫に注目。
■ 池澤夏樹 『叡智の断片』 705円+税
古今東西の賢人たちの名言集。
外国の人はよく引用をする。
「引用というのは自分の意見を飾るために叡智の断片を借りること」
日本人が著名人の言葉を引用しないのは、「意見を言わない国では使い道がない」から。
ふだんから意見を小出しにして、互いにすりあわせて、ぶつからないように調整→コンセンサスを得やすい→誰か一人の意見で決まることがない→失敗しても誰も責任を取らない……「和を以って貴しとなす」ということか? と池澤さん。
 風刺とか、ユーモアとか、教養とか、公的な場所で発言しても揚げ足取りしない・されない、とか。そういうセンス・習慣が我々にないのだから仕方ない。
■ 中野京子 『芸術家たちの秘めた恋――メンデルスゾーンアンデルセンとその時代』 476円+税
『怖い絵』の中野さんによる人物評伝。メンデルスゾーンアンデルセンがどう結びつくのか? ある歌姫の存在が……。
■ 佐野眞一 『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』(上・下) 各743円+税
【文庫版のためのごく短いまえがき】より。
 3.11当日、沖縄の新聞トップは、米国務省K・メア日本部長更迭。
「沖縄人はゆすりの名人」「普天間は特別危険ではない」などの発言。
 全国紙も報じたが、翌日から震災報道一色になった。本土ではメア問題は話題にならなかった。

 震災報道は原発問題もあり、「第三の国難」という論調になる。
 このことを、沖縄がどう受け止めるか想像したことがあるか?
 第一の国難明治維新は沖縄にとって日本併合の始まり。
 第二の国難。敗戦後、アメリカの統治下。
 第三の国難。震災で米軍が支援してくれたからといって、沖縄の基地問題をうやむやにしたり忘れてはならない。
「……東京が豊かで平穏に暮していけるのは、沖縄に米軍基地を押しつけ、原発もフクシマに押しつけているからだ、と考える人間が多くいることを忘れないでほしい」
「……この大震災から他人の痛みを思いやる体験をした。三陸や福島の人びとの不幸に身をつまされるなら、沖縄の人びとや、長期にわたって味わってきた不幸にも思いをいたそう。少なくとも言論に関わる人間なら、それが最低限のつとめである」
■ ホセ・エミリオ・バチェーコ、マリオ・バルガス=リョサカルロス・フェンテスオクタビオ・パス、ミゲル・アンヘル・アストゥリアヌス
ラテンアメリカ五人集』
 571円+税
6月にも、ボルヘス『砂の本』を刊行。さすがかつて『ラテンアメリカの文学』(全18巻)を出した集英社。ネタはいっぱいある。過去に文庫でも出していた。
■ 中島らも小堀純 『せんべろ探偵が行く』 571円+税
 03年「オール読物」連載終了してすぐ、らもさんTAIMAで捕まって、執行猶予中に単行本になって、まだ猶予中に亡くなった、というイワク付きの本。文春は文庫化を避けた? 
 文庫化記念「酔いどれ座談会 “せんべろ”から“ぜんべろ”へ」収録。絵は絵本作家の長谷川義史さん。左からマネージャー・アトム、らも、小堀。バックは新世界。
 せんべろ=1000円でべろべろ。ぜんべろ=全員べろべろ。
(平野)