週刊 奥の院 7.10

■ 古林海月(ふるばやし かいげつ 女子漫画家)
『わたし、公僕でがんばってました』 中経出版
 952円+税

 コミックエッセイ。著者は姫路在住、2003年漫画家デビュー。講談社の『米吐き娘』が売れた。当店、応援している人ですが、何分ウチはコミック少ないので、力になっていない。
 元H県の公務員、9年間勤めた。最初の配属が本庁の「芸術文化課」。この時、阪神・淡路大震災。避難所巡回や電話相談窓口に動員される。続いて「県立大学」の某キャンパス。さらに福祉事務所で生活保護ケースワーカー、ここでの仕事は重労働。
「公務員の仕事は退屈だなんて思ってるアナタ、福祉事務所では退屈してるヒマはありませんよ」
「幸せが足りない人(死人を含む)のお手伝いです」
 長所も短所も隠さず9年間の公務員生活を綴る。
 昨年の年収は内職の数万円のみと告白。フリーの厳しさ。
■ 阿部和重 『和子の部屋 小説家のための人生相談』 朝日新聞出版 1700円+税

 男性作家が女性作家から相談を受ける。
 角田光代   幸福と小説は両立するか?
 江國香織   言葉しか信じられない
 川上未映子  怖くて……
 金原ひとみ  毎日プレッシャーで……
 朝吹真理子  書くことの終わりが見えない
 綿矢りさ   片思いが実らない
 加藤知恵   誰と付き合えば?
 島本理生   同上
 川上弘美   幻想だったのかも……
 桐野夏生   ビビっとこない

「和子」と女性名にしたのは、連載中、創作上の「女装」を試みていた時期だった。しかしながら、毎回、兄・先輩・弟・癒し系ホストと、多面的なお顔を見せておられるらしい。
 小説家の悩み=創作の悩み。
 いつもの読まずに紹介する、です。愚か・能なしをさらしていること、承知。
 個人的に、角田さん、両川上さんのお悩みを読みたい。怖いけれど桐野さんのも。
■ 森まゆみ 『おたがいさま』 ポプラ社 1400円+税

 森さん、歯科医のおうちとはいえ、下町の長屋暮らし。「おたがいさま」「お世話さま」の社会で育った。
 地域雑誌『谷根千』を始めた1984年頃、地域にはまだ「おたがいさま」で生きる老人がたくさんいた。夕方になると誘い合って銭湯に行き、買物をし、支え合ってくらしていた。
 バブルと地価の騰貴はこうした老人たちを町から吹き払ってしまった……。
 お年寄りは亡くなったり、郊外の子どもの家に移ったり、長屋・路地・銭湯・個人商店は消え、チェーン店やスーパーになる。

「おたがいさま」は無償の助け合いであり、功利的なギブ・アンド・ていくではない。無限に広がっていく、「命のつなぎあい」なのである。

 病気も離婚もリストラも、すべて個人の責任にされ、自殺者は毎年3万人を越える。そして、大震災・原発爆発。これから予想される健康被害、産業への打撃、国際的信用失墜。
 

ひとつだけ希望の持てることは、私たちが今までの生き方のおかしさに気づき、お金や地位ではなく、人のために生きることによって自分を生かすという、新たな価値観を見いだすかもしれないことです。

 森さんは、雑誌を作りながら、「温かくて風通しのいい町づくり」をめざして活動してきた。
 新しい世代に、子育て支援という「おたがいさま」のネットワークが生まれている。
(平野)