月曜朝礼新刊紹介

【文芸】
■ 佐怒賀三夫(さぬがみつお) 『向田邦子のかくれんぼ』 NHK出版 1300円+税
 今年は向田邦子没後30年。出版物は続くことでしょう。NHKテレビでも7月にドラマ「胡桃の部屋」放映。出演、松下奈緒蟹江敬三竹下景子
 著者は東京新聞文化部記者を経て、フリーの放送批評家。72年から97年、文化庁芸術祭賞等の審査員。「向田邦子賞」創設に関わり、現在も運営委員。
 彼女との初対面の場面。NHKでのパーティー、知り合いの記者に紹介される。

「まだ逢ったことないんやってね」
 大阪弁口調で傍らの女性を引き合わせてくれた。彼女が向田邦子であることはすぐわかった。
「あ、いつもドラマでは」と言ったが、挨拶としては不完全なものだった。彼女が一体、何の気紛れからと身を鎧うような気持ちであったことを思い出す。彼女は、フフフと人懐っこい笑顔を向けた。そして確か、二言三言、言葉を交わした。短い時間の中で、どんな話をしたか遠い記憶しかないが、彼女の方も初対面の挨拶よろしく、「批評、読んでるわよ」――「それは、どうも」とかなんとか、まあ、そんなやりとりの中で、どこまで本心か別として、彼女は彼女なりに精一杯気配りをしてくれていた。
 今思えば、いい気なもんだが、私は胸を張りたい気分であった。向田邦子は、すでに有名脚本家なのである。

 テレビの世界が大きく飛躍した時代、フリーの批評家など“日陰者”だった。
「当時のテレビで向田ドラマは今の視聴者が想像する以上に刺激的だった」
「向田さんと逢うのは、正直言って怖かった。フフフと微笑しながら、数々の名作のように、独特の鋭いシニカルな感性で、向かい合ったら最後、すべてを見抜かれてしまうのではないか。そんな不安が拭いきれなかった」
 帯に早坂暁さんの推薦文がある。
“どうやらこれは向田カルメン嬢に捧げる佐怒賀ホセの純情歌です” 当たり!
 カバーの絵は料理屋の小鉢。向田さんに連れて行かれた妹さんの店、でしょうな。
【芸能】
■ 都築響一 『演歌よ今夜も有難う  知られざるインディーズ演歌の世界』 平凡社 1900円+税
“ヒップホップやロックだけじゃない、演歌にもインディーズがある!”
 大阪の天王寺公園のあちこちでは朝から大音量で唸ってはります。“通天閣の歌姫”という人もいてはりました。
 カラオケ喫茶・スナック、健康ランド、路上、老人ホーム、レコード店を回るプロの卵……、昔で言う「ドサ回り」など。
 

 プロの歌手としてデビュー以来、半世紀以上歌いつづけているベテランから、この時代にあえて演歌歌手を目指してバイト代を自主制作CDにつぎ込む若手まで、レベルや芸歴はさまざまでも、歌に賭ける思いの深さはだれにも負けない、そういう歌い手たちをこれから訪ね歩いていく。
 テレビ局と広告代理店とプロダクションがつるんで、でっちあげていくスカスカの歌があり、スナックのステージや商店街の雑踏の中で、ときには無視され、ときに涙と声援を受けながら、うたいつづけられる歌がある。
 君はどちらの歌を選ぶだろうか。
 君はどちらの歌に選ばれるだろうか。

 17人の“演歌人生劇場!”
(平野)