週刊 奥の院 6.22

■ 林洋子 『藤田嗣治 本のしごと』 集英社新書ヴィジュアル版 1200円+税
 藤田が関わった「本のしごと」――表紙絵・挿し絵――から約90冊を紹介。「装幀」と言わないのは、彼が造本全体のどこまで関与していたのかはっきりしないため。
目次
序曲――藤田の装幀観と、ある奇書
第一幕 美しい本――愛書都市パリ、挿絵本との出会い  パリでの挿絵本、「豪華版」との出会い 初めての「本のしごと」 東方的な物語の演出――木版画の魅力 パリの新世代書き手との接点――銅版画の習得 愛の表現
第二幕 記憶の中の日本――一九二〇年代パリの寵児 パリでの日本美術展という始まり ポール・クロデールの三冊 「ジャン・コクトーの日本訪問」への追憶 他
第三幕 記憶のなかのフランス――一九三〇年代日本のニーズ
第四幕 洋行文士と藤田――戦時下の日本での協働、そして
終曲――本という小さな展示空間で

 著者は、藤田の「装幀観」を「美術品」としての本づくりと評している。
 65年京都市生まれ。京都造形芸術大学准教授。美術史、藤田研究。
 

装幀というものは難しい芸術である。一口で尽せば、女に衣裳と言った工合のものであろう。
……私は外国でも日本でも度々着附け役をたのまれて随分難渋した事がある。出来上がった花嫁姿は、中々思った通りには行かぬ勝ちである。
……巴里のサロン・ドートンヌにも装幀部があって、年々見事な、美装の書籍が陳列されて行く。概して欧米では書籍を大事にする習慣が強く、絵画と同じく、財産として、一家の主要な一部を占めている。主人の自慢であり、訪問客もその前に引きずられて行くのである。我が国では、訪問した家庭で書棚を見せてくれる機会は極めて少ないのである。
 外国にはエジョン・ド・リュリス(エディション・デュ・リュクス)という豪華版の贅沢版の限定本が、その発行部数の番号を附記して出版される事によって、本類が芸術品としてその紙価を高め、人々によって尊重されている訳である。
 我が国の様に、印刷の精巧な図画譜の如き、画集の様なものは大した価格はなく、単に印刷代だけのものである。単行本であっても、作者のサイン入りの限定版になって、恰も画家の作画の如く貴重品となり、さらに絶版となって鰻上りの価値を高めている訳である。
……
 特別に装幀された本等は、想像以上のものがある訳である。宝石を鏤めた文箱の様な金庫の様な本がある。木彫り、象牙彫、金銀の金具を以て装飾した本も見事である。皮革、織物等に至ってはその種類も極めて多く垂涎措く能わざるものである。
 私の蔵書中最も珍品というのは、南米エクワードル国の古書であって、装幀は……

 この文章、1937年6月発表「人皮製の珍書」。その本、日本に持ち帰り、愛書家仲間にも知られた。写真掲載。
 愛書“狂”というのでしょうか、私、ご勘弁いただきたい。
(平野)“女子の古本市”各地から本が届いています。これまでの古本市とちゃいます。期待して待っといておくれやす!