週刊 奥の院

【新書】
豊粼由美 『ニッポンの書評』 光文社新書 740円+税

1 大八車(小説)を押すことが書評家の役目
2 粗筋紹介も立派な書評
3 書評の「読み物」としての面白さ
他、「ネタばらし」はどこまで許されるのか、プロの書評と感想文の違い、新聞書評採点など。
 トヨザキ社長はどれくらい本を読むのか?というくらい、あちこちに書評を書く。文学賞の選考委員までブッタ斬るのがすごい、エライ。

…小説を乗せた大八車の両輪を担うのが作家と批評家で、前で車を引っ張るのが編集者(出版社)。そして、書評家はそれを後ろから押す役目を担っていると思っているのです。

 批評は作家にとって時には煙ったい、しかし絶対に重要な伴走者的役割で、書評は素晴らしいと思える作品を一人でも多くの読者にわかりやすい言葉で紹介すること、と。ベストセラー作品に批判的なことを書くこともある。
 

どうしてもガマンできなくなっちゃうことがあるんですよ。なんで、こんな作品がバカみたいに売れて、同じ系統でありながら傑作というべきあの作品がまったく売れないのかという不満が、時々押えきれなくなってしまう。人間が未熟なんでありましょう。

 面白いものは面白い、面白くないものは面白くない、と言う、書く。それが「評」です。トヨザキ社長は新聞の書評やら文芸誌に登場しない、それが彼女の矜持だろうし、読者の信頼。

森崎和江 中島岳志 『日本断層論 社会の矛盾を生きるために』 NHK出版新書 820円+税

 森崎さんは『からゆきさん』(朝日新聞社 1976年)――九州の娘たちが19世紀後半、東南アジアに渡り娼婦となって働いた、その聞き書き――で有名。著作は『森崎和江コレクション――精神史の旅』全5巻(藤原書店)など多数。
 1927年朝鮮大邱市生まれ、父親は現地で高校教師。44年福岡県立女子専門学校入学。戦後、詩作、短歌発表。58年谷川雁上野英信らと「サークル村」創刊。地方の下層労働者の声、表現を集め、闘争を支援。59年女性交流誌「無名通信」創刊。女性の労働と日常に注目し、著作活動。
 

 植民地という原罪、中央の論理で容赦なく切り捨てられた炭坑夫などの末端労働者、そして、消費され踏みにじられる女性という性――一枚岩とされた戦後日本に走る数々の「断層」に鋭く注目し、それらを乗り越えようと苦闘してきた森崎和江。「格差社会」「無縁社会」など呼称こそ違え、この国にはなおも有形無形の「断層」が存在していることは間違いない。生きづらさに打ちひしがれる前に、まずは森崎の声に耳を傾けてみよう。彼女の人生と向き合ってみよう。(中島)

◇ヨソサマのイベント
「花あかりのひと 随筆家・岡部伊都子展」  
4.28(木)〜6.26(日) 神戸文学館 水曜日休館(5.4は開館)http://www.geocities.jp/miyamoto_tadao/ 
 記念講演 6.11(土)14時〜15時30分 「清らな女(ちゅらなひと)――伊都子曼荼羅」 藤原良雄(藤原書店社長) 参加費200円、定員50名お問い合わせ:神戸文学館 078−882−2028
◇海文堂のイベント
森達也トーク&サイン会 いよいよ23日(土)14:00〜 今回、整理券発行していません。立ち見覚悟でお出でください。
(平野)
荒蝦夷」フェア、20日は仙台「河北新報」の電話取材。
 お客さん、「新聞見たで」と声をかけてくださる。平台を撮影する人もいる。