週刊 奥の院
■三山喬『ホームレス歌人のいた冬』 東海教育研究所発行 東海大学出版会 1800円+税
朝日新聞「歌壇」に「ホームレス歌人・公田耕一」という人が投稿していた時期がある。私もよく目にした。本書によれば2008年暮れから約9ヵ月。同歌壇の常連入選者。08年といえば、あの「年越しテント村」。
共感・応援の声が相次いで、他の投稿者たちが「公田」のことを詠んだ。同時期に投稿し始めたアメリカ獄中の人・Gさんがいる。今も投稿を続ける。Gさんが詠んだ「公田」のこと。
囚人の己が〈(ホームレス)公田〉のことを想いつつ食むHOTMEALを
獄での朝食、「熱い粥状のオートミールを食べながら、公田氏を自然に想い浮かべていたのです」。
「公田」を求めて横浜のドヤ街を探索する。そこの人たちは元々他人に無関心というか干渉しない、短歌を読む余裕などない。
著者同様に「公田」に呼びかけている編集者がいる。電話で接触して「クデン」と名乗ったと言う。編集者が、外部との窓口になると申し出たが断わられた。
著者も、地元関係者に取材をするが、不明。「あの人」かも、という情報が入る。俳人、歌人、識字学級の先生、図書館の常連、インテリのマック難民など。別人だった。
「公田」を探しながら、ホームレスの人たちの力を借りて路上生活を体験した。
著者の推論。
「公田」は野宿者から保護受給者になり、「ホームレス・公田」をやめたのでは?
人は絶望的な苦境に立たされると、心に蓋をしてしまいがちになる。だがそれは、希望をも遠ざけてしまう自己防衛である。もし、傍らに「表現」という自己確認の手立てがあれば……、極寒の路上でも孤独な独房でも、人は自分自身のまま生きてゆくことができるのではないか。
パンのみで生きるにあらず配給のパンのみみにて一日生きる
百均の『赤いきつね』と迷ひつつ月曜だけ買ふ朝日新聞
美しき星空の下眠りゆくグレコの唄を聴くは幻
体調を崩しこのまま寝込みたき日でも六時に起きねばならぬ ……
(平野)
24日、仙台「荒蝦夷」Hさんより電話。ご無事なるも、事務所・自宅とも立ち入り禁止状態。幸いにして「本」無事。山形に仮事務所を置いて、仙台から在庫移動中とか。私、お話を聴いてうなずくだけ。へたに声を出したら絶句してしまう。「とにかく生き延びて」と言うのがやっと。この電話で「荒蝦夷」全点フェア決定。到着次第開催します。勝手に決めて、文芸クマキに怒られる。彼女も「応援フェア」を企画していた。許せ、わてには時間がない。夢ない、カネない、毛(けー)もない。