週刊 奥の院


■『久坂葉子研究 第2号 久坂葉子作品小特集』 久坂葉子研究会 900円(税込) 
 復刊ではなく、同研究会から発掘された「第2号」、倉庫か押入れから出てきた模様。昭和58年7月発行。当店、「第3号」「第4号」在庫あります。
「第2号」目次
 かのひとにあくがれて 写真集
 死人の訪れ 島尾敏雄  昭和28年『新潮』4月号から転載
 久坂葉子作品小特集 「港街風景」「彩子とお日様」「スケッチブックからのエスキス」など6篇
 他に、評論、資料、参考文献目録補遺。 装丁・君本昌久。
「港町風景」冒頭。
 

 お彼岸が過ぎたといつてもまだゆふぐれあたりからはぐつと冷え来んでくる波止場の近くの道を、私はひとり小さなスーツケースをさげて歩いてゐた。夜の九時に出帆するといふ高松行の船を待つため、東海道を混んだ汽車に揺られて今先刻(さっき)、神戸へ下車したのである。船が出るまでの後二時間あまりを、どうすごさうといふあてもなく、異人向のシルクストアをのぞいたり、いそがしさうな船の荷揚げを眺めたりしながら、とある細道に入った。頂度そのとき、細道の奥の方より、あれは古典露西亞の作曲家のものらしいクワルテツトの一楽章がきこえて来た。音に渇えてゐた私は同時に香り高いコーヒーの香(にほひ)にふれると、ゐたたまれなくなつて、ひきづられるやうに、その音と香りの源へと近づいて行つた。

 パラパラめくっていると時代の雰囲気を感じます。
 印刷所は「神戸刑務所」。〔表2〕広告は「六興出版」で、久坂葉子の作品3冊と、富士正晴『贋・久坂葉子伝』(当時3200円)が並ぶ。下段は「海文堂ギャラリー」。〔表3〕には「コーべブックス」「後藤書店」に、文壇バー「Mako」の広告。〔表4〕には「構想社」の『久坂葉子作品集』と「ジュンク堂サンパル店」広告。
(平野)