週刊 奥の院

ご無事を祈ります。
青木正美『ある「詩人古本屋」伝 風雲児ドン・ザッキーを探せ』 筑摩書房 2800円+税 装幀・間村俊一

 ドン・ザッキーとは、大正4(1925)年ダダイズム詩集『白痴の夢』(即刻発禁)を出版し、「世界詩人」を刊行した、都崎友雄のこと。カバージャケット、メガネの人。この写真は昭和25(1950)年頃の古書市場。昭和9(1934)頃古本屋を始めた。
ドンの詩。

  勘定はすんだのだ
生まれて来たが故に 要求されたる死 それが傀儡師の遊技的復讐だ 
併し、僕は、借金を払った 生命に返還して これで勘定はすんだのだ。 
自然よ 今こそ僕ら 対立している僕自身の 意識せる原子の意志を発見する。

 著者・青木は古本屋さんで、文筆活動。都崎を初めて見たのは、昭和29(1954)年夏、古本屋になって2年目。都崎は少し前まで古書組合の理事だったが、貸本屋開業の講演に来た。小冊子『新貸本開業の手引』も刊行。青木も支店として貸本屋を開業した。まだ、彼がドンであることは知らない。
 青木が昭和57(1982)に著書『東京下町古本屋三〇年』を出版し、都崎の『新貸本屋〜』を引用したので贈呈した。その後、「戦後下町古本屋事情」について書こうと、都崎を訪ねるが、既に認知症が進んでいた。その頃に彼の経歴を知り、また市場に大正末期の「冨山房」小僧さんの日記帳が出て、ドン・ザッキーと深い関わりがあったことが分かる。この日記から「古本屋詩人」の姿が浮かび上がってきた。
(平野)