週刊 奥の院


『私たちはいまどこにいるのか  小熊英二時評集』 毎日新聞社 1800円+税
 『<民主>と<愛国>』『1968』の小熊英二さん新刊。1977〜2011年までの時評、インタビュー、講演をまとめる。
 10数年の間に、コメントを求められるテーマが移りかわってきた。90年代半ばは、日本の多民族国家、沖縄や北方領土など「日本の境界地域」の問題。90年代末〜2000年代初めは、歴史認識靖国ナショナリズム。2000年代半ばには、憲法教育基本法改正。後半はプレカリアート運動や若者の「生きづらさ」。2010年になると、再び沖縄・尖閣諸島など境界地域。

 これらの変遷は、ジャーナリズムの関心の移りかわりであるとともに、日本社会がその時々に直面していた問題の移りかわりでもあると思う。しかしあらためて読み直してみると、私は一貫して、日本の近代化一五〇年と、戦後七〇年の歴史のなかで、それらの問題がどのように構造的に発生してきたか、私たちはいまどの位置にいるのかという視点から答えている。個別の問題には個別の専門家、たとえば憲法の専門家、雇用の専門家、外交の専門家などのほうが当然くわしいのだが、自分としてはそうした視点を提供するのが自分の役割だと思って見解を述べてきた。

目次 Ⅰ 「ポスト戦後の思想」はいかに可能か? ――現代日本の転換点 戦後日本の社会運動――プレカリアート運動はどう位置づけられるか 戦争の歴史と向き合う――被害・加害二元論を超えて 他
Ⅱ 人は独創的でありたいか――社会科学的テーマの考え方 “保守”に吸収されてゆく“普通”の市民たち――現代ナショナリズムの実像 孤立がもたらすポピュリズム――ナショナリズムのいま 揺れ動いた外交手法――尖閣諸島沖映像流出事件 他
Ⅲ 起源と歴史――戦後55年と社会の変動 沖縄アイデンティティーの行方――「自立か同化か」を超えて 「沖縄の戦後体制」の終わり 

(平野)